モニター。
PCの。テレビの。ショッピングモールのイベント広場の。家電量販店の売り場に並ぶ大量のモニター。
それを見るといつも裏側に回ってみる。
流石に入り込めるんじゃないかなんて今はもう思わなくなったけど、それでも確かめずにはいられない。
ホントに?って。
そこに映るのは有名な球場。観客で埋め尽くされている。吹奏楽と応援の声。強い日差し。
マウンドに立つ男の子が今、ボールを投げた。ああ、空振り…!立ち尽くすバッターの子。すごく悔しそう。
大歓声と興奮したアナウンサーの声で、画面の前に並んで立ち、8Kとか何Kとかを熱心に説明する店員さんの話は半分も届かない。
私は一瞬目を閉じた。
シャットダウン。
野球をしている高校生たち。それを撮るカメラ。映像が映るテレビ。テレビ画面を見る私の眼。情報を受信する私の脳。
裏返し。
情報を受信する私の脳。テレビ画面を見る私の眼。映像が映るテレビ。それを撮るカメラ。野球をしている高校生たち。
ホントに?
少し前から、植物を育てています。
ミント3種類、バジル、ローズマリー、唐辛子、トマト、サボテン、観葉植物を数種類。
これまで枯らすばかりだったので、自分で鉢植えを買って育ててるなんて我ながら驚きです。
毎日手入れをしていると、もしかして意思疎通ができてるんじゃないかと感じることがあります。
「少し風に当たりたいな」
「お水はしばらく結構です」
「蕾ですよ、ほら見て!」
「そんなに構わないで」
何となくその通りにしていたら、驚く程大きくなり、今ではなかなかの存在感です。
先日大雨の後、急に日が差したのでベランダに出てみると、素晴らしく大きな虹が出ていました。しかも二重の!
思わずわあと声を上げてしまいました。
その時サーッと風が吹いて、植物たちの葉っぱが一斉にパタパタパタ!とはためき出しました。
何だか一緒に並んで見事な虹を見上げているような気分でした。
そうしてそのままその葉の羽根で、
私の植物たちはみんなして、
あの虹のところへ飛んで行ってしまうのでは、ほんとはそうしたいのでは…と感じていました。ごく自然に。
以来、そんな日が来たら精一杯羽ばたけるように、遠くまで飛んで行けるように、そうイメージしながらお世話しています。
ドアに鍵を掛けて前を向いた瞬間
電車が進み始めた瞬間
飛行機が離陸した瞬間
船が岸から離れた瞬間
長い別れだろうと短い旅行だろうと、
ただの近所の買い物だとしても
「もう後戻りは出来ない」
と覚悟するみたいなあの感覚が好きだ
なので毎日
人や部屋や景色や
そこにいた自分の気配にまで
「さよなら!」と言う
そして新しい景色に向かって
「こんにちは!」と言う
…もちろん心の中で。
というわけで、さよならを言う前が
どんなに不安でもショボくても
全然「大丈夫!」なのです
思うことの全てが浮かんで模様となる
それを大地から見上げている
見ている自分にもまた模様がある
その時の、自分の中の模様によって
空に映る模様もまた、
さまざまに違って見える
「鏡の中の子」
子供の頃、年の離れた従兄弟からもらった、古くてとても立派な装丁の「世界児童文学集」に入っていたお話だ。
寝る前によく、母親に読んでもらっていた。
主人公はヒルデブランドという名前の、
つい嘘をついてしまう男の子。
その場しのぎのすぐバレる嘘ばかりつくので、彼はいつも友達にからかわれていた。でもどうしてもやめられない。
ある時鏡を見ていると、中に映る子が話しかけてきた。
「明日から君がついた嘘は全部本当になるよ。だからもう誰も君をバカにしない」
翌日ヒルデブランドは友達とボールで遊んでいるうち、ボールが逸れて藪の中で見失ってしまった。
友達に弁償しろと責められ、いつものようについ「熊が出て探せなかった」と言ってしまう。
またそんな嘘を…と友達に笑われかけた時、奥から本当に熊が出て来て町は大騒ぎ、当然ボールのことはうやむやになった。
さらに翌日、宿題を忘れて先生に問い詰められたヒルデブランドは
「妹が目の病気になり看病をしていて、宿題が出来ませんでした」と言ってしまう。しまったと思いながら、おそるおそる家に帰ってみると、妹は本当に目が見えなくなっていた。
怖くなった彼は、鏡の中の子に「妹を元に戻せ!」と詰め寄る。
「だって君は約束したじゃないか。」
と中の子はにべもない。彼は怒りのあまり、鏡を殴って割ってしまった。
この後の件りは忘れてしまったが、ともかく事態は無事に収まり
「それからヒルデブランドは、正直で優しい子供になりました。めでたしめでたし」
という結末だったと思う。
当時
「後味わるい話だな。嘘つきだけどすごく妹思いだし、そんなに悪い子かな」
と思ったものの、なぜか読んでくれる母親にそれを言えなかったのをよく覚えている。
今なら分かる。なぜ感じたことを正直に言えなかったか。
それはその古くて立派な本が、こんな風に語りかけてくるように感じていたから。
「いいか、お前は従順なただの子供だ。子供は目の前のことを正直にやってればいい。決して嘘など作り出してはならぬ。嘘は自分の頭で考えることだ。それはこの社会からの逸脱に繋がる。そんな事は決して許さないぞ」
ああそうか。
「鏡の中の子」はやっぱり、鏡に映る、ヒルデブランド本人だったんだ。
嘘をついていたのは物語の読み手、私たちの方だったのか。。