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「鏡の中の子」
子供の頃、年の離れた従兄弟からもらった、古くてとても立派な装丁の「世界児童文学集」に入っていたお話だ。
寝る前によく、母親に読んでもらっていた。

主人公はヒルデブランドという名前の、
つい嘘をついてしまう男の子。
その場しのぎのすぐバレる嘘ばかりつくので、彼はいつも友達にからかわれていた。でもどうしてもやめられない。

ある時鏡を見ていると、中に映る子が話しかけてきた。
「明日から君がついた嘘は全部本当になるよ。だからもう誰も君をバカにしない」

翌日ヒルデブランドは友達とボールで遊んでいるうち、ボールが逸れて藪の中で見失ってしまった。
友達に弁償しろと責められ、いつものようについ「熊が出て探せなかった」と言ってしまう。
またそんな嘘を…と友達に笑われかけた時、奥から本当に熊が出て来て町は大騒ぎ、当然ボールのことはうやむやになった。

さらに翌日、宿題を忘れて先生に問い詰められたヒルデブランドは
「妹が目の病気になり看病をしていて、宿題が出来ませんでした」と言ってしまう。しまったと思いながら、おそるおそる家に帰ってみると、妹は本当に目が見えなくなっていた。

怖くなった彼は、鏡の中の子に「妹を元に戻せ!」と詰め寄る。
「だって君は約束したじゃないか。」
と中の子はにべもない。彼は怒りのあまり、鏡を殴って割ってしまった。

この後の件りは忘れてしまったが、ともかく事態は無事に収まり
「それからヒルデブランドは、正直で優しい子供になりました。めでたしめでたし」
という結末だったと思う。

当時
「後味わるい話だな。嘘つきだけどすごく妹思いだし、そんなに悪い子かな」
と思ったものの、なぜか読んでくれる母親にそれを言えなかったのをよく覚えている。

今なら分かる。なぜ感じたことを正直に言えなかったか。
それはその古くて立派な本が、こんな風に語りかけてくるように感じていたから。

「いいか、お前は従順なただの子供だ。子供は目の前のことを正直にやってればいい。決して嘘など作り出してはならぬ。嘘は自分の頭で考えることだ。それはこの社会からの逸脱に繋がる。そんな事は決して許さないぞ」

ああそうか。
「鏡の中の子」はやっぱり、鏡に映る、ヒルデブランド本人だったんだ。
嘘をついていたのは物語の読み手、私たちの方だったのか。。

8/18/2023, 2:14:42 PM