『秋』
お芋のスイーツ。かぼちゃのスイーツ。
日が出てる時間が少なくなって、だんだん涼しくなっていく。
制服が冬服に移行する。文化祭もある。
それとまあ、嫌な話をすれば、大学入試が近づいている。
あとは、そろそろこたつの時期かなぁ。
お洋服も、冬物出さないと。何となく、夏服より冬服の方が好きだ。
そんなことを考えて、そして、苦笑する。
随分と前向きに考えられるようになったものだ。
数ヶ月前は人間関係を嫌い、感情が動くことに怯えていたのに。
自分を取り巻く全てのものに、怯えていたはずなのに。
きっと、君のおかげだ。
『窓から見える景色』
窓の向こうには、清々しいくらいの青空が広がっている。外に出たかったけど、僕は外に出ることが出来ない。
窓のそばには向日葵の花束が置いてある。僕の好きな花だ。太陽の光をめいっぱいに浴びて咲き誇る向日葵を格好良いと思っていた。だからお母さんに「何か欲しいものある?」聞かれた時、真っ先に「ひまわりがいい!」と答えていた。
でも、お母さんが持ってきた向日葵は、僕が欲しかったものとは少し違っていた。根元を切られ、紙で巻かれ、なんだかくたっとしていた。
鉢植えは病院のお見舞いには持って行っては行けないらしいということを、僕はその時初めて知った。でも僕は、やっぱり向日葵には立っていて欲しかった。
窓辺で横になる向日葵はなんだか元気が無くて、鉢植えに植えてあるよりも縁起が悪いような気がした。
それでも、山吹色の向日葵は、窓の向こうに広がる、夏の青空によく映えた。
僕の小さな世界を少しだけ明るくするのには十分だった。
『形のないもの』
「形のないもの」。言葉。人間の感情。
これらは、私の嫌いなもの。
大切にしたいと思っているもの。強いこだわりがあるもの。
だからこそ、避けてしまうもの。
相手が発する言葉には、たくさんの、その人の感情が入り込んでいる。私はそれを、想像で補いたくはない。でも、私は超能力者では無いから、相手の気持ちはお見通しとはいかない。やっぱり想像で補うことしかできないから、自分が考えられるだけのパターンをいくつも想像して、行動する。相手を傷つけないよう、慎重に。
それが、とても疲れる。
『ジャングルジム』
昔よく遊びに行ってた公園に、ジャングルジムがあった。
私は同年代の子の中でも1番小さくて、小学校に上がる頃になっても、1mいくかいかないかくらいだった。
だから、そのジャングルジムは私にとってかなり大きなもので、結局一度も遊んだことがなかった。
小学1年生の夏に引っ越してしまったから、それから一度もあの公園には行っていない。
今だったら登れるだろうか。
大きくなったから、余計登りにくいかもしれないな。
受験が終わったら行ってみようか。
久しぶりに、あの公園を見てみたいと思った。
『声が聞こえる』
部活に好きな先輩がいた。
優しくて、明るくて、いつも楽しそうで。
絵を描くのが上手くて、トランペットの音が綺麗で。
自分の中に、決して揺るがない「何か」を持っている人だった。
私の隣で、先輩がトランペットを吹く。
チューニングの時、全く音程が全く合わなくて、「気持ちわるー」って言って笑った。
トランペットに名前をつけ、メトロノームに名前をつけて笑った。
先輩のバイト先の話とか、家族の話とか、私は横で聞いているだけだったけど、十分楽しかった。
基礎練習でも、個人練習でも、合奏でも、自分の音に先輩の音が重なると、途端に厚みが増すのが楽しかった。
先輩が笑っているのが嬉しくて、
自分もその隣で笑えているのが嬉しくて、だから、寂しかったのかもしれない。
先輩が卒業した途端、何も感じなくなった。
ほんの数ヶ月前まで先輩が使っていた教室を、今度は私が使っている。教室移動の時、気がつくと先輩を探している。
自分が歩いてきた廊下を振り返る。
先輩の後ろ姿が見えた気がして、声が、聞こえた気がして。