題 雫
教室の授業中、こぼれる雨のしずくを窓から見つめていた私。
ただ、途切れることなくこぼれていく透明なしずくから、なんだか目が離せない。
幾度も溜まっては限界を迎えて流れて行っては、新しい雫が形成されていく。
「瀬田」
横の席に並んでいる虹川が声をかけてきた。
「ん?」
横を見ると、虹川の後ろに怖い顔をしている先生が腕組みをして立っている。
あ、やばい・・・。
「どこ見てるんだ?」
先生の声に、私は首すくめて小声で返事をする。
「すみません・・・」
先生が行ってしまうと、虹川が話しかけてくる。
「どうしたんだよ?何見てたの?」
「え?雨のしずくだよ。見てると面白くない?」
「そうなのか?」
虹川は私が窓へと目を移すのを見て、一緒に目を移動させる。
締め切られた窓の外。
今は梅雨の時期で、ザアザアという音と共に雨の筋が沢山窓に流れていた。
「何か、しずくがいつ落ちるかとか考えて見てると面白いかもな」
虹川の言葉に私も頷く。
「うん、ひたすら作業してるのとか、ありとかをジッと眺めているのとかやめられない時あるじゃない?それに似てるんだよね〜」
「なるほどな〜」
虹川が納得したように頷く。
「ヒマ潰しにはなるのかもな。授業中、暇つぶししてちゃだめだけどな」
笑う虹川に、私もそうだけどね、と笑う。
そこへ・・・
「虹川!瀬田!」
教室に響く大声に、恐る恐る横を見ると、そこには、さっきよりさらに顔をしかめた先生が腕組みして私達を見下ろしている。
「二人とも、放課後反省文書いて持って来い!」
先生に怒られて、私達ははい・・・と返事をする。
「ごめんね」
口パクで虹川に謝る。
手でオッケーマークを作ってくれる虹川。
そんな虹川に罪悪感を感じる私。
横で流れ続ける雫を見たい欲求と戦いながら、その後は一生懸命授業を聞いていたのだった。
それでも、放課後は反省文が待っている・・・。
もう雫を見るのはやめないと。
でも、何となく引き寄せられてしまうんだよね。
私は今年の梅雨はあまり降水量が多くないことを祈っていた。
題 何もいらない
何もいらない、何一ついらない
私は何も必要ないよ。
お願い神様
だから奈々の恋を叶えてほしい。
私の唯一の大事な親友だから。
そんなふうに願った日。
親友の奈々は、振られた。
よりによって・・・。
よりによって相手は私が好きだと言ったらしい。
許さない。
私の大事な奈々を泣かせて。
何で私なんか好きになるの?
奈々の方がずっとずっと可愛くて、素敵な性格なのに。
私には絶対に理解できない。
その前に・・・奈々を泣かせた相手が許せなすぎて。
奈々は気にしないでって言ってくれたけど、当然ぎこちない感じになってしまった。
嫌だ。
奈々と元のように笑いあいたい。
何もいらないなんて嘘だ。
大嘘。
私は奈々とずっと一緒にいたい。
誰かの戯言のせいで、奈々といられなくなるなんて絶対に許容できないよ。
お願い神様、奈々の側にいさせて。
一緒にいられなくなってこんなに奈々が大事だって気づくなんて。
大好きだよ。
この気持ちは恋とは違うけれど限りなく近い。
私の失えないものを再認識した日。
私は必死に元の関係に戻れるよう祈り続けていた。
題 もしも未来が見れるなら
「未来が見れるなら何を見たいと思う?」
昼休み。
教室で友達の朋子と一緒にお昼ご飯を向かい合って食べていた私は朋子に問う。
私達は机を合わせて、お弁当を広げていた。
朋子はウインナーを箸で持ち上げながら束の間考えた。
「わかんない、なに?」
一瞬後、すぐに返事をすると、ウインナーを口に運ぶ朋子。
「ちょっと位考えてくれてもいいじゃん」
私の不満の声に、はいはい、といいながら、次は卵焼きに箸を伸ばしている。
「あのね、私、未来が覗けるなら、絶対に傘がどう進化してるか見てみたい!」
私の言葉に、朋子は、へえと一言発する。
「もー、反応鈍いなぁ」
「だって、傘なんだって思って」
朋子の返事に、私は力説を始めた。
「たかが傘、されど傘。私、この世で傘ほど面倒くさいのってないと思うの。歩く時も他の人の傘とぶつかったりするし、満員電車で傘あるとみんな濡れるし、いい加減改良されてもよくない?」
「まぁ、そうだね、傘は、前から形も大きさもそんなに変わらないかもね」
朋子が頷きながら言うのに自信を得て、私はたたみ掛ける。
「そうなの、だから、未来に行ったら真っ先に傘がとうなっているか確認したいんだ。どうなってるかな?自動乾燥機付きの服とか?超撥水な服でそもそも服が濡れないとか、頭に電動でヘリコプターみたいに回転して水を弾く機械があるとか」
「よく、そんなこと真剣に考えるよね」
私が話している間もぱくぱくとお弁当を食べていた朋子は、食べ終わって、お弁当のフタを閉めている。
「気になってるんだよね、こうして考えてるうちにひらめいて、発明出来ないかなって思ってるよ」
私が画期的な発明が出来たらいいんだけど。
でも、こんなに考えてもなかなかいい案が出ないって、案外傘が一番画期的ってことなのかな?
「まぁ、葉月みたいな人がいるから、生活は便利になっていくのかもね。私も傘は面倒だから、手を使わなくていい傘を発明してよ」
朋子は私にそう言った。
「手を使わなくていい傘?そうだねっ、それもいいよね、考えてみるね」
私はどうしたらそんな傘が作れるか考え出す。
「ねえ、もう昼休み終わるけど」
そう朋子が言った瞬間に、予鈴が鳴る。
「ええっ!!」
私はまだ大幅に残ってるお弁当を見下ろす。
「ちょっと先の未来を見てたら、もっと早くお弁当たべてたのにね」
そう含み笑いで言う朋子を軽くにらみながら、私は急いでお弁当の残りを口に運び続けた。
題 無色の世界
「水って綺麗だよね」
私は隣を歩くボーイフレンドに話しかけた。
「ん?何?唐突だね」
ボーイフレンドはびっくりしたような反応をする。
「うん、ほら、あそこ、噴水あるでしょ?」
私達は公園でデートしていた。図書館の帰りに公園の近くのカフェに向かうことになったんだ。
「あるね、噴水」
「私、図書館帰りにいつも近くを通ったり、噴水の脇に座って水を眺めてるんだけど、いつも凄くキレイだなって思うんだ。光の反射できらめいたり、水がさざなみを立てたり」
「前から思ってたけど、君って文学的な表現をよくするね」
「そうかな?だってそう思うんだから仕方ないでしょ?」
私がそう言うと、ボーイフレンドは、苦笑した。
「悪いなんて言ってないよ」
「そ?それでね、水の色って、透明だけど、海とかは青いし、もっと浅瀬だと水色に見えるし、それが凄く不思議だなって思ったんだ。水は無色なはずなのに、色んな色彩を見せてくれるから、見てて飽きないなって」
「確かにね。光の反射でそう見えるんだけど、言われてみると不思議だし面白いね」
「そうでしょ?」
ボーイフレンドに肯定されたのが嬉しくて、思わず私は笑顔になる。
「でも、僕は君のほうが不思議で面白いけどね」
「え〜何それ?面白いとか失礼じゃない?」
私はその言葉に不満を覚える。
「褒め言葉だったんだけど」
ボーイフレンドも不満気な顔をする。
「そうだったの?」
私がボーイフレンドを見上げると、彼も同時に私を見下ろした。
「うん、そうだよ」
笑顔が少し眩しい。私はさっと視線をそらす。
「じゃあ、カフェに行こうか」
ボーイフレンドは気にすることなく、先へと進みだした。
私は少しだけ立ちすくんで噴水の水を眺める。
音を立てて吹き上がり、勢いよく落ちる水の流れ。
無色だけど、形作られた様々な造形を見ていると、何となく吸い込まれるように見てしまう。
水の持つ魅力に私はいつも囚われてしまう。
「行こうよ」
ボーイフレンドが戻ってきて、そっと私の手を取る。
ハッと我に返った私は頷く。
「そうだね」
また明日ゆっくり噴水を見に来ようかなって思いながら。
題 桜散る
桜の花びらがヒラヒラと私の眼の前に舞い降りてきた。
隣にいる彼氏が手のひらを差し出してその花びらをキャッチする。
「花びら、きれいだな」
そう言って差し出した彼氏の手のひらに指を差し出して、小さな淡いピンクの花びらをつまんだ。
「うん、お花見、来れてよかった」
私が彼氏を見上げて微笑む。
4月から違う高校に通っている私達。
新しい高校には同じ学校から通う友達が一人もいなくて、一人で何となく出遅れてた。
それでも、好きな英語学部に行きたかったから、英語の専攻の授業が沢山あって、嬉しかった。
それでも、寂しさもある。
いままで中学まで彼氏と女友だちと一緒に楽しく過ごしていたから。
全然違う環境の高校でストレスが溜まっているのか、疲れてしまう。
彼氏は、同じ中学の友達が沢山通っている高校だから楽しそうだ。同中の女の子も沢山彼氏の高校に進学しているから、そこも心配になってしまう。
だけど、毎日通話して、気遣ってくれる彼氏。
それで、私が元気がないのを知って、お花見に誘ってくれたんだ。
「ありがとう、凄く綺麗だし、気分転換になったよ」
私は笑顔で彼氏に笑いかける。
「うん」
彼氏も微笑んで私の頭に手を乗せた。
「もっと一緒にいられたらいいのにな」
ドキッ
彼氏のそんな言葉に、私はトキメキを感じる。
それと同時に嬉しさも沸いてきた。
「・・・そうだね、それでも、こうして会えるだけで嬉しいよ。また明日から頑張れそう」
私は心からの気持ちを彼氏に伝える。
「・・・良かった。でもな」
彼氏が何となく拗ねたような顔をする。
「ん?」
私は何だろうと聞き返す。
「同じ高校にカッコいい男がいたりしないか?」
「・・・ふふっ!」
私は、自分と同じことを考えている彼氏に思わず笑ってしまう。
「何で笑うんだよ」
彼氏は笑ってる私に軽く抗議した。
「ううんっ、大丈夫だよ、あなた以上のイケメンは高校にいないから、安心して」
私の言葉に、彼氏は、ホッとしたような笑みを見せた。
そんな彼氏に、私は彼氏の手を取って顔を見つめる。
「また、すぐデートしようね」
「そうだな」
私達は、そのまま見つめ合っていた。
ヒラヒラ
桜の花びらが視線の横をよぎる。
私は顔を上げて、風が吹き付け散っていく桜吹雪を見つめた。
まるで薄桃色の雪の中にいるようだ。
横に彼氏がいてくれるのが、たまらなく嬉しい。
その時、この手をずっとずっと繋いでいたいって、強く強く思ったんだ。