題 無色の世界
「水って綺麗だよね」
私は隣を歩くボーイフレンドに話しかけた。
「ん?何?唐突だね」
ボーイフレンドはびっくりしたような反応をする。
「うん、ほら、あそこ、噴水あるでしょ?」
私達は公園でデートしていた。図書館の帰りに公園の近くのカフェに向かうことになったんだ。
「あるね、噴水」
「私、図書館帰りにいつも近くを通ったり、噴水の脇に座って水を眺めてるんだけど、いつも凄くキレイだなって思うんだ。光の反射できらめいたり、水がさざなみを立てたり」
「前から思ってたけど、君って文学的な表現をよくするね」
「そうかな?だってそう思うんだから仕方ないでしょ?」
私がそう言うと、ボーイフレンドは、苦笑した。
「悪いなんて言ってないよ」
「そ?それでね、水の色って、透明だけど、海とかは青いし、もっと浅瀬だと水色に見えるし、それが凄く不思議だなって思ったんだ。水は無色なはずなのに、色んな色彩を見せてくれるから、見てて飽きないなって」
「確かにね。光の反射でそう見えるんだけど、言われてみると不思議だし面白いね」
「そうでしょ?」
ボーイフレンドに肯定されたのが嬉しくて、思わず私は笑顔になる。
「でも、僕は君のほうが不思議で面白いけどね」
「え〜何それ?面白いとか失礼じゃない?」
私はその言葉に不満を覚える。
「褒め言葉だったんだけど」
ボーイフレンドも不満気な顔をする。
「そうだったの?」
私がボーイフレンドを見上げると、彼も同時に私を見下ろした。
「うん、そうだよ」
笑顔が少し眩しい。私はさっと視線をそらす。
「じゃあ、カフェに行こうか」
ボーイフレンドは気にすることなく、先へと進みだした。
私は少しだけ立ちすくんで噴水の水を眺める。
音を立てて吹き上がり、勢いよく落ちる水の流れ。
無色だけど、形作られた様々な造形を見ていると、何となく吸い込まれるように見てしまう。
水の持つ魅力に私はいつも囚われてしまう。
「行こうよ」
ボーイフレンドが戻ってきて、そっと私の手を取る。
ハッと我に返った私は頷く。
「そうだね」
また明日ゆっくり噴水を見に来ようかなって思いながら。
4/18/2024, 12:27:08 PM