題 好きじゃないのに
席替えの日、私は自分のくじで指定された席に着くと隣を見てため息をついた。
隣のたくまくんも私を見て同時にため息をつく。
2人の声が重なる。
「また隣の席か」
たくまくん自体に罪はない。話してて楽しいし、別に隣でもいいんだけど・・・。
「おー不正してんじゃねえよ!ラブラブだからって」
「また2人隣なの?そう言えばクラスもずっと一緒らしいよ?」
「え?やばくない?」
そんな声があちこちから聞こえてくる。
「あー、やだっ!」
私がそう言って耳を塞ぐと、たくまくんも顔をしかめて頷いた。
「最悪だよな」
なぜか私とたくまくんは同じクラス、隣の席になることが多い。
さっきも言ったけど、たくまくん自体はいい人だ。
でも・・・私もたくまくんも好きな人がそれぞれいる。
それなのに、完全にクラスでカップル扱いで・・・。
たくまくんの好きな人は違うクラスだからまだいいけど、私はからかわれてる姿を好きな人に見られている。
「神様ってひどいよね?お互いなんもないんだからわざわざ一緒にしてくれなくていいのに」
私が涙目でたくまくんを見上げると、たくまくんは頷いた。
「そうだよな、俺達、本当になんなんだろうな?意味がわからない」
そんな風に愚痴ったのは何回目だろうか。
そんな風にただ話してても、イチャイチャするなよーとガヤが飛ぶ。
チラッと好きな人を見る。いつも、私が軽口叩かれても興味なさそうにして、私のことからかったことない人。
静かな雰囲気の人だけど、優しい人だ。
友達を助けたり、勉強教えたりしてるのをよく見る。
今も、軽口に気を取られず何かノートに書いている。
軽口を叩かないでいてくれてホッとした。
やっぱり、好きだなぁと思う。毎日毎日見る度に好きになっている。
「好きな人が同じクラスっていいよな」
たくまくんが私の視線を追って小さな声で言う。
「まーね、でも、からかわれてるの見られてるから、そうでもないよ。好きな人見られるのは凄い嬉しいけど!」
「そっか・・・俺はほぼ会えないから、会えるのはうらやましいな・・・」
たくまくんの好きな人は先輩だ。部活などが被ってはないから会えた日はラッキーらしい。
「見ろよ、また2人、こそこそ内緒話してるぞ、本当熱いよなー!」
「もー違うって言ってるでしょ!?」
「お前らいい加減にしろっての!違うから」
私とたくまくんの声が重なる。
一緒に、発言したことでまた息ぴったり、と歓声が起こる。
私は疲れ切ってはぁ~と机に突っ伏した。
好きじゃないのに、でもこの変なシンクロで全然信じてもらえないよ・・・。
私は何にすがっていいかわからず、天を゙見上げて祈る。
どうか、このたくまくんとのシンクロを解除して、わたしの好きな人と仲良くさせてください!
空からの返答は当然ない。
私は解決法のないこの悩みに、もう一度ため息をついた。
題 ところにより雨
「あ、ゆうちゃん、今日傘持っていきなよ」
お母さんがそう言う。
「あ、うん・・・」
私は空を見上げた。
快晴だ。雲一つない。
でも、お母さんの言う事は聞いておくに越したことはない。
お気に入りのクローバーの柄の傘を持って、「行ってきま〜す!」と学校へ向かう。
「優美、今日晴れだよ?」
と途中何人かの友達に指摘されたり、不思議そうな顔をされる。
「いーの、お母さんが持っていけって言ったんだから」
私はそう言われる度にそう言い返す。
そうすると、呆れたような顔をされたり、言う事聞くことないじゃん!と言われるけど・・・。
放課後
天気予報では、晴れ、降水確率10%だったにも関わらず、土砂降りになった。
みんな傘を持ってきていないものだから、呆然として空を見上げている。
置き傘をしていた少数の人と共に、私は優雅にお気に入りの傘を広げて帰宅する。
お母さんは、いつも雨になる日を分かってる。
なんでなの?って聞くけど、自分でもなんで分かるかわからないんだって。
でも、100%の的中率で、お母さんが雨になるって言った日は雨になる。
多分降水確率が0%だとしても、お母さんが傘持っていったら?という日は雨になるんじゃないかな?
だから、私にとっては、お母さんの雨予報が絶対で、お母さんが言った場所は雨って決まってるんだ。
それ以外に何か不思議な力があるわけじゃないけど、お母さんのその力、私はちょっと誇らしいんだ。
私はクローバーの傘をクルクル回しながら、弾む足取りで家の方角へと帰っていった。
題 特別な存在
私はいつも守られてる気がする。
「かなちゃん」
「うん?」
私は幼稚園からの幼馴染の湊くんを見た。
「今日は英語の宿題やった?小テスト出るよ。後は、書道道具が必要だけど持った?」
「・・・うん、テスト対策やったし、書道道具持ったよ」
「そっか、安心」
ホッとしたようにニコッと笑いかける湊くんに私は言う。
「あのさ、私もう中学2年なんだけど。それに、湊くん違うクラスなのになんで私のクラスの宿題知ってるの?」
毎日私の世話をやいてくれる湊くん。忘れてた時とか、頼りになるけど、まるで母親のように細かく心配される。
よっぽど私が頼りないのかな?って思ってしまう。
「だって、中学になっても、忘れ物したら困るでしょ?かなちゃんはそんなこと気にしないで。ちゃんと僕がチェックするから」
私の疑問には全く答えずに港くんはニコニコと楽しそうだ。
うーん、そんなに私のこと心配してくれなくてもいいのにな。
伝えようとしても、上手く伝えられないな。
はぁーとため息をつくと、私は湊くんと並んで歩き出す。
「高橋〜」
学校に到着した時、同じ委員会の山中くんがやってくる。
「あ、今日朝美化点検だっけ?」
朝校舎にゴミが落ちてないか確認する当番がある。
「そうそう、行こう」
山中くんは、私を急かして、腕をつかもうとする。
そこへ高速で湊くんが私と高橋くんの間に割り込んでくる。
「見てわかんない?かなちゃん、まだ登校してきてカバンも置いてないんだけど。ちょっとくらい待てないの?」
湊くんの顔が怖い・・・。
私に話しかけてきた人はみんな湊くんを怖がるけど、その理由わかるよ。
私も今の湊くん、別人みたいに怖いと思ってしまうし。
「あ、悪い、じゃあ、先に一階から確認するから、荷物置いたら3階から確認してくれる?」
「あ、ごめんね・・・」
私が謝ると、山中くんは、大丈夫!と言うと、湊くんを見て怯えたように去っていった。
「かなちゃんが謝ることないのに・・・」
横の湊くんは不満そうに言う。
「ねえ、湊くん、なんで他の人にあんなに冷たいの?私には優しくしてくれるじゃない」
私はさっきみたいな湊くんをあまり見たくなくて話す。
「え?それは、当然でしょ?かなちゃんが特別だからだよ」
「特別?幼馴染だから?」
私がそう言うと、湊くんははぁーとため息をつく。
「・・・僕たちって他にも幼馴染いるでしょ?でも、僕はかなちゃんだけに特別なんだけど?」
?
そう言われても、分からない、あ・・・
「私のこと、頼りないって思ってるから?」
「え?なんて?」
私の言葉に湊くんは心底驚いた顔をする。
「私が頼りないから何とかしたいと思って世話焼いてくれてるの?」
「・・・ねぇ、かなちゃんって鈍感だよね」
湊くんの言葉にどうも違うらしいと予測はついた。
「いいんだ、かなちゃんが分かるまで僕は続けるつもりだから。早く気づいてね」
と湊くんは、私の顔を見て言う。
今の私には全く予測がつかない。
ただわかるのは湊くんが私を守ってくれてて、世話をやいてくれることだけ。
この特別扱いの意味はいつかわかる日がくるんだろうか?
題 バカみたい
一人で舞い上がってた。
あなたが私に優しいから
いつも気にかけてくれるから
私のこと好きでいてくれるって思い込んでた。
バカだバカバカ。
自分を殴りたい
勘違いするなって怒鳴りつけたい。
だって私が好きだって言ったら
あなたは困ったように笑って・・・
そんなつもりじゃなかったのにって
私はあなたが大好きだから
気持ちが天から地に落ちていった
ガラガラと崩れて
あなたという好きな人を失ってしまった
言わなければ
まだあなたといられたかもしれないのに
もうあなたとはいられない
あなたの優しさも
いつも細かいこと気にかけてくれる所も
体調悪かったらすぐ指摘してくれるところも
全部好きだった
私にだけ向けられていると思っていたから
明日からはあなたのいない風景になれるから
もう少しあなたとの思い出に浸らせて
私はあなたに救われていたんだよ
意地っ張りな私を気にかけてくれたから
ありがとう
思い返すとあなたへの言葉は感謝だけだった
切なくて悲しいけど、やっぱり嬉しくて幸せだったよ。
私に気づいてくれてありがとう。
題 2人ぼっち
ずっとずっとお互いしかいなかった。
お互いしか見えなかった。
私のお隣さん。
隣の家に生まれたことが運命であるように
毎日悠人と一緒だった。
私達は私達以外の友達もいらなかった。
だってお互いがいれば満たされていたから。
お互いだけが友達だった。
そんな私達を両親は心配して、他のお友達と遊ばせようとしたけど、私には必要なかった。
なぜだろう。私には悠人さえいれば何もいらないという確固たる信念にも近い気持ちを持っていた。
私達は他に友達も作らず学校に入った。
不思議なことに私達はいつも同じクラスだった。
周りの人には、男女で一緒にいる私達に冷やかしの声もあったけど、平気だった。むしろ嬉しかった。
毎日一緒に帰って話して、笑いあって。
どうして他の人が必要なのか分からなかった。
私達は自然にお互いを好きになって、付き合うようになったんだ。
それでも、大学は離れて、仕事場も離れて、私は初めて孤独を感じた。側に悠人がいてくれれば何でも怖くなかったし、帰って隣にいつもいて励ましてくれる悠人がいればいつだって自信が沸いたのに。
今は会えない。側にいない、それだけで心に打撃を受けた。他の人はいらないから。友達も、言い寄ってくる人も、心配気な上司も。
私は初めから間違っていたのかな。
歪んでいたのかな。もうそれでも、今までの道は矯正できない。
・・・矯正もしたいと思わないんだ。
ピンポーン
深夜、ドアベルが鳴る。
「開けて」
悠人だ。慌ててドアを開くと、違う県で勤務してるはずの悠人だ。
「もうムリ。君と離れてるのは無理だよ・・・」
泣きそうな声で言う悠人。
分かってる。だって私も一緒だから。
私が頷くと、悠人は私にキスをして言う。
「今すぐ結婚してくれる?もう離れたくない。ずっと一緒にいたいよ」
「うん、私も」
私は悠人に即座に返事をする。
決まってた気がする。小さい頃から結末は・・・。
ずっと悠人とどんな形であれ一緒にいるんだって確信があったから。
だからyesと返事をするのは必然なんだ。
この広い世界の中で人は無数にいるけど、私にとっては悠人と2人ぼっちに等しいよ。
だってあなただけが私に必要な人なんだから。