伝えたい
でも伝わらない
「だから、あんたのこと好きなのっ」
私は一緒に登校する幼馴染に捲し立てた。
「知ってるって。しつこいなぁもう。一度言えば分かるよ」
幼馴染は、髪の毛を整えると大あくびをした。
「何でそーゆー態度なの?それが乙女に対する対応なの?!」
私がムッとして詰め寄ると、幼馴染は、欠伸をした涙目で私を見る。
「乙女?どこに?」
「もういいっ」
カバンでバターンと幼馴染をはたくと、私は先に駆け出した。
「くやしぃぃ」
学校に到着して、私が机で文句を言っていると、友達がやってきた。
「またやってるの?懲りないね」
「だって、あいつってば、折角私から告白してるのに、わかってるって言うだけなんだもん。言い損な気がするよ」
「そっか〜でもさ、毎回聞いてて思うんだけど、佳奈美も結構逆ギレ告白みたいだからさ。それもあるんじゃない?」
「そりゃ、恥ずかしいし・・・」
私の声は急に小さくなる。
あいつの前では、どうも強がってしまう。好きだけど、素直になれない。
「その態度に相手も反発しちゃうんじゃない?今度機会があったら、ソフトに、ソフトに伝えてみたら?」
「ソフトに・・・」
私、ちゃんと優しく、普通に伝えたことあったっけ?
いつも怒ったみたいな言い方だったかも。
「・・・わかった」
「うんっ、頑張ってね!」
笑顔の友達に頷いて見せる私。
放課後、私はいつものように幼馴染と家に帰る。
優しくしないと、と思うあまり無言になってしまう。
私が何も言わないので、幼馴染がチラチラ私を見ている気がする。
「・・・何かあったのか?」
幼馴染が珍しく自分から口を開く。
いつも私から一方的に話していたから心配になったのかもしれない。
「・・・なにもないよ」
私がそう返すと、幼馴染は、さらに聞いてくる。
「明らかにいつものお前じゃないじゃん」
「・・・じゃあ言うけど」
私は深呼吸をして言った。
「・・・好きなんだよ。あなたのことが。ちゃんと返事がほしいの。嫌いなら嫌いでいいから。真剣なの」
「いきなり、なんだよ」
幼馴染は、顔を赤くして横を見る。
「私のこと、どう思ってるの?」
「・・・・」
かりかりと幼馴染は、自分の頭をかいた。
「・・・好きだよ」
一言だけ言う幼馴染の言葉に耳を疑う。
「え?好きって言ったの?!」
私の大声に、幼馴染は、顔を赤くして言う。
「大きな声で言うなよ。なんか照れくさくて、返事する雰囲気でもなくて言えなかっただけだよ」
「本当?よかったぁ」
私は嬉しくて、幼馴染により掛かる。
「うわっ、なっ、お前っ!」
幼馴染の慌てた声がするけど、私は気にならなかった。
「ずっと好きだった」
私が抱きしめながら言うと、
「・・・うん」
と幼馴染は私の背中におずおずと手を回す。
その時間が、空間が幸せで、私は時が止まってしまえばいいと思う。
私と幼馴染はしばらく何も言わずに、その場所から動けずに、ただ、そこで抱きしめ合っていた。
ここでしか出来ない。
ここでしか話せない。
私の言葉は・・・。
「こんにちは」
「こんにちはー先生!」
私は白衣の優しい笑顔をした先生に挨拶をする。
「どうだった?今週学校は」
「うーん、相変わらず。つまんないよ」
私は口を尖らせて椅子の上で足をバタバタさせる。
「そうなの?毎日お疲れ様」
先生はふわっとした優しい笑みを私に向ける。
淡い色の髪が猫っ毛で、いつも私は触りたくなる。
「うん。先生に会うために頑張ったよ」
「そうだね、何か目標のために動くのはとてもいいことだよ。一歩ずつ前進してる証拠だから」
「はーい!」
私は笑顔で手を上げる。
「また来週来てね、待ってるよ」
先生のその言葉が悲しい。ずっと話していたいのに・・・。
「もう終わり?まだ先生と話したいのに〜!」
私が聞くと、先生は、少し困ったような顔をする。
「うん、また来週待ってるね?」
先生を困らせたくなかったから、私は黙って頷いた。
病室を出ると、お母さんと看護師さんがいる。
「診察終わったの?偉かったわねー」
「・・・」
私が黙っていると、お母さんが私の手をそっと握った。
「今日も頑張って診察出来たね」
ニコッと、私に笑いかける。
私は静かに頷く。
私は場面緘黙らしい。
学校では一言も話さない。
まるで魔法にかかったように、自分が話すと決めた相手以外とは話せなくなる。
喉がギュッとしめられているような感覚。
話そうと思っても、言葉が出てこないの。
だから、お父さんとお母さんと、先生。
その3人の前でだけ言葉が話せるんだ。
先生には、最初から話せた。
優しい雰囲気で、優しさオーラが体中に取り巻いてた。
あんな人は初めてだった。
だから、あの場所では。
先生と話せるあの場所では、私は言葉を取り戻す。
私という存在を表現できる。
先生という安心感に浸れる場所。
来週も早く先生に会いたいな。
お母さんと手を繋ぎながら、ふと診察室を振り返ると、診察室の扉を閉めかけた先生が私に気づいて、笑顔で手を振ってくれたんだ。
「みんな恋、してるんだよねぇ」
私は机に頬杖をついてつぶやいた。
「みんなってわけじゃないんじゃない?でも興味の沸く時期だよね」
前の席に座っていた香菜がそう私に言った。
このクラスでも何組かカップルが誕生しているらしい。
「そういう香菜も、こないだ彼氏が出来たじゃん!」
私がそういうと、香菜はペロッと舌を出して言った。
「うん、お先にごめんね」
「彼氏とはどう?楽しいの?」
私が聞くと、香菜の目は輝き出す。
「そりゃあ!今が怖いほど幸せだよ!!」
「へーえ、良かったね」
私が無感動に相槌をうつと、香菜は、
「何よっ」
と肘で私の肘をこづいた。
「だってさぁ、私には無縁なんだもん」
私ははぁーとため息をついて机に伏せる。
「好きな人のつくり方、教えてほしいなぁ」
私の言葉に香菜は半ばあきれ顔だ。
「そんなの直感だよ、雰囲気とか、顔とか、仕草とか言葉でこの人好きってなるよ。きっとさ、まだ出会ってないだけだよ」
私はその理論に妙に納得する。
「そうかぁ、出会ってないだけなんだね。それじゃあ、これからの出会いを楽しみに待ってればいいのか!」
そう考えるとなんとなく元気も沸いてきた。
「ま、それがいつかは保証できないけど」
ボソッと香菜の言葉が聞こえてきたけど、もう私には関係ない。
私は未来に出会う私の彼氏について夢想しだしたのだった。
私は春が好き。
小学校に入ったばかりでなんだか気持ちもワクワク。
お家のお庭には春になって沢山お花が咲いてるんだ!
お花の名前はお母さんに教えてもらったの。
タンポポがきれいに咲いてる。
それからシロツメ草。これはあむとかんむりになるんだって!
私はむずかしいけど、前にお母さんにあんでもらったんだぁ。
私も大きくなったらあめるようになりたいなぁ。
それから、こっちはオオイヌノフグリ。小さいけど
青くて、花びらがかわいいの。
私はとってもお気に入り!
外せないのがぺんぺん草。このぱっぱのところがハートの形になっているのがかわいらしいよね!
でーきたっ。
お庭でお花屋さん。
「おかあさーん、ごちゅうもんの花たばで〜す!」
「あら、ありがとう。可愛くできたね」
お母さんは私の頭をなでて、はなたばを受け取ってくれた。
「どこへ飾ろうかしら?」
とはなうたをうたいながら花びんを探しにいくお母さん。
私もうれしくなって、庭をクルクルまわっておどりだすの。
春ってステキ。
桜の花びらが庭にまいこんでくる。
キレイな春の恵みが庭にちらばっていく。
「ありがとう!」
なんだかむしょうにうれしくて、私は空に向かってお礼を言ったんだ。
「どこにも書けない、ここにしか」
私は日記帳に記していた。
毎日の愚痴や悩みや好きな人の話。
もともと受け身で話したりするのが得意じゃない私はいつも聞き役。
だからないがしろにされたと思うことや、つらい気持ちがあってもなかなか人に伝えられない。
だから、日記帳に書くことにした。
私の今日の日記は・・・
2月7日
今日は朝から晴れでうれしい。
学校に行く途中で渡部くんを見かけた。ドキドキしながら見ていたけど、気づかれなかった。
ザンネン。渡部くんは、私に気づくといつも挨拶してくれるから気づいてほしかったな。
学校では、奈々ちゃんの恋バナを聞いていた。奈々ちゃん々は、ほぼ両思いだって言っていた。うらやましいなぁ。
掃除の時間、片瀬さんがだるいから当番変わってって言ってきた。
私は断れず頷くと、後で奈々ちゃんに怒られた。
奈々ちゃんは明日片瀬さんに抗議するって言うけど、大事になってほしくないなぁ。
受け身・・・。
いつも日記を見てて思うのが私から行動できることが少ないってことだ。
私の理想の自分はちゃんと意見言えて、でも人とぶつからなくて、みんなから好かれてて、いつも明るくて、そんな人だ。
だけど、そんな人、実はいないんじゃないかと最近思う。
人気者でも、陰で悪く言っている子がいるのを知ってる。
きっと、自分の認識を変えて、自分を肯定するのが一番いいんだろうなぁ。
そう思いながら日記を閉じて机の横を見る。
机の横には今まで書いてきた三冊の日記帳が置いてあった。
今までの私の想いの集大成だ。
過去の自分より成長出来ていればそれでいいじゃない。
私は自分に言い聞かせる。
この誰にも見せられない日記帳は、いつまでも私には欠かせない成長記録だから。
きっとこれからも私は少しずつ成長していける。
私はペンを置くと、うーんと軽く伸びをして、ベッドに入って横になった。