ここでしか出来ない。
ここでしか話せない。
私の言葉は・・・。
「こんにちは」
「こんにちはー先生!」
私は白衣の優しい笑顔をした先生に挨拶をする。
「どうだった?今週学校は」
「うーん、相変わらず。つまんないよ」
私は口を尖らせて椅子の上で足をバタバタさせる。
「そうなの?毎日お疲れ様」
先生はふわっとした優しい笑みを私に向ける。
淡い色の髪が猫っ毛で、いつも私は触りたくなる。
「うん。先生に会うために頑張ったよ」
「そうだね、何か目標のために動くのはとてもいいことだよ。一歩ずつ前進してる証拠だから」
「はーい!」
私は笑顔で手を上げる。
「また来週来てね、待ってるよ」
先生のその言葉が悲しい。ずっと話していたいのに・・・。
「もう終わり?まだ先生と話したいのに〜!」
私が聞くと、先生は、少し困ったような顔をする。
「うん、また来週待ってるね?」
先生を困らせたくなかったから、私は黙って頷いた。
病室を出ると、お母さんと看護師さんがいる。
「診察終わったの?偉かったわねー」
「・・・」
私が黙っていると、お母さんが私の手をそっと握った。
「今日も頑張って診察出来たね」
ニコッと、私に笑いかける。
私は静かに頷く。
私は場面緘黙らしい。
学校では一言も話さない。
まるで魔法にかかったように、自分が話すと決めた相手以外とは話せなくなる。
喉がギュッとしめられているような感覚。
話そうと思っても、言葉が出てこないの。
だから、お父さんとお母さんと、先生。
その3人の前でだけ言葉が話せるんだ。
先生には、最初から話せた。
優しい雰囲気で、優しさオーラが体中に取り巻いてた。
あんな人は初めてだった。
だから、あの場所では。
先生と話せるあの場所では、私は言葉を取り戻す。
私という存在を表現できる。
先生という安心感に浸れる場所。
来週も早く先生に会いたいな。
お母さんと手を繋ぎながら、ふと診察室を振り返ると、診察室の扉を閉めかけた先生が私に気づいて、笑顔で手を振ってくれたんだ。
2/11/2024, 11:57:49 AM