街へ行きたい。
今日は休日。
いつもは家と職場の往復だから、見慣れた景色しか見られない。
だけど、今日は久しぶりのお休み。
いつもは足を伸ばせない街へ行くんだ!
彼と街でデート。
朝目覚めた時からウキウキで、幸せに包まれて起きた。
楽しみすぎて、早く起きすぎたせいでご飯ものんびり食べられた。
メイクして、服を選んで、持って行く物を整理して・・・。
1日を思ってため息をつかなくていいから、こんな日は、本当に幸せだって思う。
今日はどこに行こうかな、と考える。
会ってから決めようね!と話していて、彼氏も、どこ行こうか?と楽しそうだった。
お互い忙しくてなかなか会えなかったから、余計にワクワク感が膨らんでいる。
街に行ったら、まずはカフェがいいかな?水族館もあるし、映画でもいいな。
美術館っていうのも楽しいよね・・・。
ちょっと遠出してテーマパークっていう手も・・・。
彼氏が行きたい場所を聞くのも楽しみだな♪
鼻歌を歌いながら、家の電気を消して、靴を履いて、家を出る。
会社を出るときとはえらい違いだな、と苦笑しながら。
「行って来ます!」
私の弾んだ声と共に、パタリ、とドアが閉まり、カチャリと鍵がかかった音が部屋に響いた。
「何でそんな事言うの?」
私はクラスメートの高瀬に言い放った。
高瀬が私に対して余計な事するなと言ったから。
友達が町田くんのこと好きだから、町田くんの好きなタイプを聞き出そうとしただけなのに。
「やめとけって。そんなの、聞いた所で、好みじゃなかったらどうすんだよ?本人が聞くならまだしも、お前部外者じゃん」
「ちゃんと、優子には町田くんに聞いていいって言ったよ。いいよっていってたもん」
高瀬のトゲのある言葉に思わずムキになってしまう私。
せっかく友達の恋愛に協力しようとしてるのに、何でこんな風に否定されるのか分らない。
「本当にやめとけって、分からないやつだな」
イライラした口調になる高瀬。
「高瀬に聞いた私が馬鹿だった!もういいっ」
「あ、おいっ・・・」
私は高瀬の言葉を振り切り、町田くんのクラスへ向かう。
丁度お昼休み。
他クラスで、人数もまばらだ。
「あ、菜由!」
知り合いを見つけて、声を掛ける。
「おー、楓、どうしたの?」
菜由が笑顔で駆け寄ってくる。
「町田くん、いない?」
「町田くん?あー、今いないよぉ」
にやにやして話す菜由。
「最近同じクラスの井川さんと付き合い初めて、多分どっかで2人でご飯じゃないかなぁ?」
菜由の言葉に、私の顔から血の気がサーッと引いた。
「えっ、彼女、出来たの?町田くん」
「うん、最近ね、ラブラブだよ♪」
私はフラフラと、ありがと、、、とクラスを離れると、自分のクラスへと戻る。
私のクラスの扉の所に高瀬がもたれて待っていた。
「言ったろ?やめとけって」
「うん・・・余計な事しなきゃ良かった・・・優子に何て言ったらいいんだろ・・・」
あんなに嬉しそうに毎日町田くんの話を聞かされていたのに。
こんな残酷な現実をつきつけなきゃいけないなんて・・・。
私の涙目になる目を見て、高瀬は、私の肩を軽く叩いた。
「言わなくても良いんじゃないか?いずれ分かるだろうし。言うか言わないかは楓次第だけど」
「うん・・・余計悩みが増えてしまったよ・・・高瀬は知ってたんだね?このこと・・・」
「まぁ・・・町田は、同じサッカー部で、彼女の話してたからな」
そっか・・・
私を止めたのは、高瀬なりの優しさだったんだ・・・
「ありがと、止めてくれて、なのにごめんね、突っ走っちゃって」
私は絶望的な気持ちで謝る。
「楓らしいじゃん。人の為に頑張る所。でも、これにこりたら、恋愛の事に首を突っ込むなよ」
高瀬は優しい笑みで言う。
ううー。本当に私は馬鹿だった、でも聞いてしまったことはどうにもならない。
私は優子にどう告げようか悩みながら、高瀬に向かって神妙に頷いたのだった。
寝れないなー
私は真夜中、目が冴えて仕方ない身体を持て余していた。
ベットで何回も体勢を変えて、息を深く吸って吐いてを繰り返して、眠る時、定番の羊を数えてみても目は冴えたままだ。
やらないほうがいいと思いつつ、ベッドサイドのデジタル目覚まし時計に手を伸ばす。
さっきから30分おきに確認しているのが分かる。
さっき見た時は、1時半だったのが、今は2時5分だった。
はぁぁ、とため息をつく。
目が冴えたままの私は、なぜ目が冴えているのか、理由について考えだした。
そもそも、今日は割と学校で失敗して、宿題忘れで先生に怒られ、教室で居残りで宿題してたら、クラスメートにからかわれ、イラつきながら、すべて終わらせて、先生に提出したんだっけ。
そのまま帰宅途中、またそのクラスメートに合って軽口叩かれ、私も言い返して、かなりの苛立ちに苛まれ、
そこで、コーヒー牛乳を何杯か飲んで怒りを落ち着かせ・・・。
それから、明日の勉強しなきゃ、と今日の宿題を早めにやったんだよね。
早めに始めたついでに、予習もしとこうと、意外と頑張れる自分偉い!なんて自分を褒めちゃったりして・・・。
眠気覚ましにコーヒーを4杯ほど飲んだっけ?
あっ、やっぱ、振り返ると、これはコーヒーが悪かった気がするなぁ。
飲みすぎたかも。今、心臓もどくどくいってるし。
でもさ、クラスメートの悪口も意外と私のアドレナリンを活発にさせてるわ。
マジで意味わかんない。あいつだって、そんなに成績良い訳じゃないのに、宿題忘れたからってあんなにからかわなくても・・・。
どうでもいいことでいつも突っ掛かってくる・・・。
さては、私のこと好きなのかな?
いつもいつも突っ掛かってくるの、逆に好意があるからとか?
いや、それでもかなり迷惑だわ。
というか、そもそも私別にあいつのことタイプじゃなかった・・・。
そんなことを考えていた私はもう一度反射的に時計の時間を確認すると、2時28分・・・。
いい加減眠りたいよ〜と思いながらも、まだまだ先が長い予感がする真夜中だった。
雷の日
私は家でブルブル震えていた。
雷が凄い音で鳴り響いてる。
怖い、怖い、怖い・・・!
中学になった今でも、雷だけは克服できない。
ひときわ近づいてくる雷に、私は思わず毛布を被って隣の部屋へ行く。
ガチャ
扉を開けると、お兄ちゃんがベットで本を読んでた。
「何?どうしたの?お前」
毛布を被ったままのお兄ちゃんがあっけに取られた顔をする。
が、次の瞬間、合点がいったように頷いた。
「そっか、雷弱かったもんな。怖くなっちゃったんだ?」
からかうように言われて、私はお兄ちゃんを睨みつける・・・ものの、雷の音に、たまらず、お兄ちゃんのベッドに入り込んだ。
「ちょっと、お前、何してるんだよ!」
抗議の声も聞こえないふり。
ここでいれば安心だ。
両親は共働きで二人共帰るのは遅いし。
もうここしか安息の場所はない。
「もー仕方ないな、おい、もうちょっと横にずれろよ。狭いだろ」
お兄ちゃんの声に、横にずれる。
人が側にいる気配に、私は心からホッとする。
「お兄ちゃん、雷止むまでここでいていい?」
私が聞くと、
「好きにすれば。お母さん帰ってきたら下に行けよ」
お兄ちゃんは、本を読みながら答えた。
私は本をめくる音を聞きながら目をつむる。
時折強い雷が来たら、お兄ちゃんの服の裾を握ってしまったけど、何も言われなかった。
一人じゃ心細くて恐怖で死にそうだったけど
私にお兄ちゃんがいてよかったな、と思った瞬間だった。
そして、私は段々と引き込まれるような睡魔に襲われながら夢の中へと落ちていったのだった。
私は学校帰り、近くの河原を通りかかった。
今日はテスト期間で早い時間に帰れて少し嬉しい。
いつもは部活が終わる六時半ごろはもう真っ暗だから。
河原を通りかかると、川に鴨が泳いでいるのが見えた。
「わっ、可愛い、北から渡ってきたのかな?」
私は河原の側まで寄ると、カバンを脇に置いて、体育座りでジーッと鴨を見る。
優雅に泳ぐ鳥は、足の動きは凄く早いって聞いたことがある。
あんなに優雅に見えるのに不思議だなぁと感じていると。
不意に眠気が襲ってくる。
昨日もテスト勉強でそんなに寝てなかったなぁ・・・。
暗記ゲーが苦手すぎて、永遠繰り返してて・・・。
「・・がいっ、永井っ!」
ハッと目が覚める。
私はいつの間にか寝ていたらしい。
体育座りをしていたはずが、いつの間にやら仰向けで。
上から呼びかけた人の顔が逆光で見えない。
「だ・・・れ?」
「俺だけど」
声で分かる。一瞬で目が覚めた。
「あっ、キャプテン!お疲れ様です!!」
男子バレーボールのキャプテンが私を覗き込んでいた。
私は女子バレー部に所属しているから即座に認識した。
「お疲れ様。本当に疲れてたみたいだな。あんな所で無防備に寝てると危ないぞ」
爽やかな笑顔で私に言う。
あああああ、呑気に河原で寝てる所を見られたっ、しかもバレーのキャプテンに・・・。
「あの、鴨を見ててですね、そしたら勉強を一夜漬けしてたので、そこから意識が途絶えたんです・・・」
「なるほど。へー、確かに鴨いるね。明日のテストの対策は大丈夫なの?」
キャプテンと話していると思うと緊張する。
というか、何とか私の失態の口止めをしなければ。
「明日は、私の唯一得意な国語なので大丈夫です!ところでキャプテン、あの、内緒にしてくれますよね?」
私がカバンを拾い上げ、草をパッパッと払い、長身のキャプテンを見上げると、キャプテンは微かに首を傾げた。
「ん?なんのこと?」
「あの、私がここで寝てたことです。バレー部の女子キャプテンとかに言わないでください」
絞り出すように声を出して話した私の顔は真っ赤になっていたに違いない。
「ああ!そのこと。あははっ、気にしてたの?可愛いな」
そう言って私の頭に手を載せてくしゃっとするキャプテン。
忘れてた。この人けっこう軽いスキンシップする感じの人だ。
かっこいい顔と長身ということもあり、そのせいで凄い人気あるんだよなー。
泣かされた女の子も多数いると聞く。
「じゃあ、言わないでくれますか?」
私が、希望の眼差しで見上げると、キャプテンは、私を見て笑った。
「言わないよ。言ったって、僕に得ないでしょ?それより、本当にあんなとこで寝てたらだめだよ?」
言った後、真剣な顔で話してくるキャプテンに、私も思わず焦って言い訳する。
「大丈夫ですっ、今日は特別疲れてたからっ、それに無性に鴨に惹かれる日だったんです。そういう日はそうそうないですからっ」
焦りのあまりトンチンカンな回答。してしまう。
その回答を聞いて、先輩は口に手を当てて笑いをこらえている。
「確かに、そういう日はあまりないかもね、面白いね、永井って」
「先輩もあまりそこらの女の子に可愛いって言わないほうがいいと思います!」
馬鹿にされたように感じてつい言い返してしまう。
あっけにとられたような顔をした先輩は吹き出した。
「そうだね、一本取られたかな」
いつの間にやら一緒の方向へ歩き出す私達。
キャプテンもこっちが帰り道らしい。
「でも、別に誰にでも言ってるわけじゃないけどな」
「うそですよ、それは。先輩の被害者の会があるの、知ってるんですからね」
私が、ジトッとした目を、して見ると、先輩はまた笑う。
「被害者の会って、それは嘘でしょ。凄く誤解があると思うけど」
「うーん、確かに、私もウワサでしか聞いたことないです」
そう言えば、と思い返して考え直す私。
「そうそう、ウワサに惑わされちゃだめだよ、気づいて偉いね」
頭を撫でられる。
「だからっそれがだめなんですよ?」
私は思わず赤面してしまう。
「あ・・・」
自分の手を見つめてから私の方を向く先輩。
「そうだね、やってたわ無意識に。気をつけるよ」
「はい、そうしてください・・・」
なんの時間だろう、と思わせるような会話。
「それで、永井も被害者の会の一員だったりする?」
いきなりの、先輩からの質問。
「いや、そんな、恐れ多いっ、バレー部の頂点に君臨する人にそんなっ」
私の言葉に、またしても先輩は笑い出す。
笑い過ぎじゃないの?もう
憮然とした顔をする私に先輩が言葉を発する。
「やっぱり、口止めしてほしかったら、今度お茶に付き合ってほしいな」
「えっ?だってさっきいいって言ったのに・・・」
私が話の流れに当惑してると、先輩が笑顔で私をみた。
「気が変わった。もちろん付き合ってくれるよね?」
話が違う!と思ったけど、私に選択権はない。
「わかりましたよ」
ヤケクソのように言うと、先輩は嬉しそうに笑った。
イジワルだ、と私は思う。
まあ、お茶位ならいいかな。
私と先輩は、その後どこへ行くかという話をしながら案外楽しく分かれ道まで話して帰宅したのだった。