「1年間いろいろあったなあ」
12月31日
私は机に座って、日記を書く手を止めて、1年間の回想をしていた。
高校の入学式で、緊張したこと。
5月の体育祭で、実行委員をやることになって、友達がとても増えたこと。
友達が出来て賑やかな7月、花火やお祭りに行って楽しかったこと。
9月になって、実行委員仲間の一人が気になって仕方なかったこと。
10月、修学旅行、気になっている男の子と一緒の班になって、沢山話したこと。
11月、思い切って告白すると、好きって言ってもらえて、幸せの有頂天だったこと。
そして、12月、クリスマスに、初彼氏と一緒に過ごした。
一緒にカフェに行って、水族館に行って、楽しかったなぁ。
そう回想していると、私の携帯がメールの着信音を告げる。
「何してた?早く会いたいな。今年はありがとう、来年も、よろしく!」
彼氏からのメールの文に私の顔は綻ぶ。
こうして大事な人がいることがとても嬉しくて、ずっとずっとこれからも一緒にいたいと思った。
私は返信画面を開いたまま、どう返そうかな、と口がニヤけるのを止められずに、返信文を打ちだした。
こたつに入ってくつろぐ私は、卓上に置いてある丸い入れ物に入ったみかんを見る。
「一つ食べちゃおーっと」
それを見ていた妹が釘をさすように言う。
「あーまた。私が見てるだけでもお姉ちゃん、今日3個はみかんを食べてるよ?太るよ」
横でこたつに入って読書している妹にイーッとしてやる。
「いいんだもんっみかんは低カロリーだし、それに・・・」
ほこほこしたこたつの中にいると、条件反射的にみかんに手が伸びちゃうんだから。
「ふーん、ミカン人間になっても知らないから!」
そう言うと、妹は、本をパタリと閉じて、リビングを出ていく。
「なによーミカン人間ってー!」
私は妹が消えた後に呼びかけるが、返答はない。
「さてと」
邪魔者が消えた所でみかんの皮をむく。
甘酸っぱい匂いが鼻をくすぐる。みかんの皮をむいて行くと、甘酸っぱい果実が姿を現して、期待が沸いてくる。
三日月型のみかんのフォルムも可愛いと思う。
薄皮を取って口に入れると、みかんの果肉が口の中一杯に広がって幸せだ。
こたつの暖かさも幸せの相乗効果になっている。
「うーん、やっぱり冬はみかんに限るよね〜!」
私は誰もいないリビングで、頬に片手を当てて思わず叫んでいた。
「会いたい、会いたい、会いたい」
私のノートに書きなぐった字。
「会いたいよ〜!」
私は自分の机を勢い良く叩いて叫んだ。
勉強も身に入らない。
冬休みになって、クラスに行くこともなくなって・・・
大好きなさとるくんに会えなくなっちゃった・・・。
せっかく最近仲良くなってきたのに・・・。
私は冬休みを恨む・・・。
連絡先、聞きたかったな。恥ずかしくてきけなかったけど。
気分転換に、なくなりかけのシャーペンの芯を買いにコンビニへ向かう。
会計を済ましてコンビニのドアから出ようとした時。
「あれ?みなみちゃん?」
名前を呼ばれる。
「さ、さとるくん!!」
コンビニに入ってくるさとるくんと遭遇する。
完全に油断していた私は素っ頓狂な声で反応してしまう。
「あ、さ、さとるくんっ、わ、私はシャーペンの芯買いに来たんだ、さとるくんもコンビニに用?!」
勢い良く畳み掛ける私にびっくりした様子のさとるくん。
「うん、ノート買うついでに新発売のお菓子買いにきたんだ」
「あー、お菓子好きって言ってたもんね!」
さとるくん、いつも話しに行くとお菓子分けてくれるから好き♪
「ちょっと待ってて?お菓子買ってきたら分けてあげる」
そう言われて、ドキドキしながら待つ私。
コンビニに来てよかった!!
「はい、これ、コーラキャラメルだって!」
渡されたお菓子は、ちょっと微妙なものだった。
「これ・・・?」
不審そうに包み紙を見る私に、さとるくんは目を輝かせて言う。
「パチパチしたキャンディーが入ってて、中にはコーラグミが入ってるんだって美味しそうだよっ」
「へ、へー」
恐る恐る口に入れると、パチパチしたキャンディーとキャラメル、それに中の柔らかめのグミがちょうどよく良く絡まって美味しかった。
「おいしーこれっ」
私がそう言うと、「そうでしょ?」と笑顔で得意げな顔をするさとるくん。可愛い。
「じゃあね!」
そういうさとるくんを笑顔で手を振って見送る。
あれ・・・?
何か聞こうと思ってたような・・・?
あっ!連絡先!!
と思ったときにはさとるくんの姿はなかった。
「まぁ、会えたからいっかぁ」
私はもう一度コンビニへ美味しかったコーラキャラメルを買いに入ることにしたのだった。
「あーさむっ」
私は冷え性の手をこすり合わせて呟いた。
学校が終わって、帰ろうと思ったら今日は凄く風が強くて・・・。
冷え性の私の手は雪女みたいに冷えていく。
「はぁーはぁー」
自分の息を吹きかけてみても、全然温まらない。
「もう、早く帰ろうっと」
歩みを早めて帰宅しようとした時、
「水月!」
呼び止められた。
「あ、高瀬」
同じクラスの高瀬が息を切らせて駆けてくる。
「今帰り?」
と聞かれて、
「あ、うん。日直の仕事してたら遅くなったよ。高瀬は?」
「俺も、先生に提出物出してから帰ったから遅くなった」
「へー」
普段そこまで仲よくないけど、まあまあ話す関係の高瀬。
こうして二人で話す機会も珍しいな。
そう考えていると、風が勢いを増す。
「寒っ、もーカンベンしてほしいよ、この寒さ」
私が震えながら一層手をこすり合わせると、高瀬が、
「はいっ」
と、手ぶくろを渡してくれる。
「え?これ、高瀬の?」
私が聞くと、
「そうだけど、貸すよ。俺けっこー暑がりだし。うちの母親がいつも勝手に入れちゃうんだ」
「いいの?」
「いいって」
そう言われ手ぶくろをはめる。
途端に寒気を遮断された両手にじんわりと温かみが戻って来る。
「高瀬〜!ありがとー!すっごく生き返った!!」
私が高瀬の両手を握ってお礼をいうと、高瀬は、
「あ、うん・・・どーいたしまして」
と顔をそむけて返事をする。
私達はそのまま、分かれ道まで話して帰ったけど、手ぶくろがあるだけで、帰り道は、大幅に快適なものになっていた。
「明日は、私も手ぶくろもってくるから、ありがとねっ」
分かれ道で手ぶくろを取ろうとした私に、高瀬は、
「いいよ、明日で。家まで寒いだろ?」
と言ってくれる。優しいな・・・。
「ほんとーにありがと!明日返すね!」
「おう、またな」
片手を上げて手を振り、高瀬と別れると、私の心はほかほかと温まっていた。
手も暖かいし、高瀬とのやりとりも嬉しくて心が温まった。
明日、また高瀬と話すの楽しみだな。
私はご機嫌で家までの道をはずんだ足取りで進み出した。
変わらないモノ
変わらないキモチ
「ユイって凄いね、ずっと3年間先輩の事好きなんでしょ?」
友達に言われて頷く。
「うん、中1からずっと好きだった」
中高一貫の学校で、入学の時、生徒会で体育館の前にいた先輩に一目惚れした。
高1の大人っぽい先輩。
「よく続くよねー。片思い」
友達が呆れたような目で私を見る。
「私も驚いてる。こんなに長い間好きでいられるなんて」
キモチを操作できない。
先輩の近くにいると反応するし、すれ違うだけで、ドキドキ胸がうるさい。
「もうすぐ卒業式だよ?どうするの?」
そう言われると、心がドーンと重くなる。
挨拶位しか交わしていないから、私のこと認識してくれているかすら分からない。
だけど、4月から会えなくなってしまうことを思うと苦しくて仕方ない。
「告白、してみたら?」
そう友達に言われた言葉。
私は、考えに考えた挙げ句、先輩に想いを伝える事にした。
「好きです」
心臓が体から飛び出しそうな位ドクドクと鳴っている。
呼び出した先輩は、私の言葉を聞いて、ふんわりと微笑んだ。
「ありがとう・・・でも」
でも、付き合ってる彼女がいるからごめんね、好きでいてくれてありがとう
そう続いた言葉。
私はショックの中、取り繕うような笑顔で、一礼すると、走ってトイレに駆け込む。
言えた、言えて良かったという達成感と、先輩に彼女がいたという喪失感、悲しみが同時に襲ってくる。
胸の痛みを感じながら私は想う。
今までありがとう。と、
ずっと先輩を好きでいてくれた心にお礼をする。
変わらなかったキモチ。沢山の初めての感情を知れた。
だから後悔は一つもないよ。
私、先輩を好きになって良かった・・・。
先輩への気持ちはこれから変わって行くのかもしれない。
これから変化していく時間でどれだけ私の想いが変わっていっても、今までの想いを決して否定したりしない。
あんなに先輩を大好きだった気持ちだけは・・・。
涙がひとすじ、ツゥーと流れていった。
今日だけ、今日だけ泣いたらまた明日から頑張ろう。
私は次々にこぼれ落ちてくる涙をハンカチで拭いながらそう思っていた。