kiliu yoa

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7/30/2023, 4:29:52 PM

 『待雪草』 初めて彼女を見たとき、頭に浮かんだ。

彼女は、絹のような髪、白磁のような肌、紫翡翠をはめ込んだような瞳をしていた。

 まだ齢三、四の子どもだった彼女は、刀に魅入られた。

 彼女は、こちらをじっと見る。和多志の刀を振るう姿を、稽古する姿を、いつも凝視した。

 今の平和な世で、女である彼女が、刀を振るう必要がない。そもそも、彼女はこの家の人間では無い。あくまでも、此処に一時的に預けられただけに過ぎない。

 この家の家業は、御様御用(おためしごよう)。刀剣の試し斬り役にして、死刑執行人。

この家で刀を習うということは、死刑執行人になることと同意義なのだ。

「刀を習いたいか。」と、和多志は彼女に問うた。

「はい。」と、彼女は凛とした、真っ直ぐな眼で応えた。

「和多志の見習いとなり、相応の努力をすれば、死刑執行人になれる。女は、死刑執行人には成れない。女を捨てる覚悟は、有るのか。」と、和多志は彼女に問うた。

「はい。」と、彼女は覚悟を決めた眼をしていた。


 後に、彼女は首の皮一枚だけ残し斬首する、最年少の死刑執行人となる。


  そして、その技力から後世に語り継がれることとなる。

 

7/29/2023, 11:02:08 AM

『激しい』、この言葉を彼女は体現したような人だった。

 わたしの愛人の中で、最も繊細で、嫉妬深く、猫みたいに可愛い人。

一見すると彼女は 強く、激しく、美しい。

 しかし、素の彼女はどこか寂しげで、人一倍に繊細な人だった。時より彼女は、猫のように甘え、満足すると猫のように去っていく、わたしのもとを。

 なんだか、少し寂しいけれど ちょうど良い関係。

そんな彼女らしいところに、わたしは、ずっと惹かれている。

7/29/2023, 12:32:09 AM

 にぎやかな音。いつもの此の場所とは、違う雰囲気。いつもとは、違う側面を持つ場所。
 屋台が開かれ、人々が賑わい、囃子の演奏を聞きながら、皆、どこか嬉しそうに話している。

 彼らの雰囲気は緩み、この時だけは、ごく普通の子どもの表情に変わる。

 彼らには、この時はいつも小遣いをやる。勿論、いつもの賃銀とは別途である。いつもの感謝を込めて、年に一度くらいは必ず、小遣いをやるようにしている。

 彼らの楽しそうな、嬉しそうな、明るい表情。 なんだか、ほっとする。


      この時間が、いつまでも続けば良いのに。

7/27/2023, 10:21:45 AM

『ねぇ、あなたは幸せ?それとも不幸せ?』妖艶な甘い声で、問われた。

「不幸よ。」と、わたしは応えた。

『ふふ、はっきりというのね。』狼の目をした美しい女が応えた。

『あなたには、ふたつの選択肢があるわ。ひとつめは、わたしの子どもになる。ふたつめは、再び地獄のような生活に戻る。さぁ、どちらが良いかしら?』と、甘い声でわたしに問うた。

「貴女の子どもになる。」と、覚悟を決めた。

『本当にいいの?一度も、逮捕されたこと無いけれど、わたしは、何度か、事故に見せかけて、人を殺したことがあるの。』甘さの無い、真剣な声だった。

「あの生活に戻るくらいなら、なんだって良い!」意志の強さを感じられた。

『じゃあ、契約成立ね。』美しい女は、弾んだ甘い声で応えた。


7/27/2023, 1:34:12 AM

 あなたは、多くの人々を思い遣る人でした。そして、子どもたちにも、よくその教えを説く人でした。ただ、子どもの一人が「あなたのようになりたい。」と言うと、あなたは、はっきりと「わたしのように成るな。」と言いました。

 『首切り執行人』それが、あなたの役職でした。この国では、非公式のお役目です。非公式といえば、聞こえは良いですが、ようは殺し屋、『暗殺者』でした。その中でも、あなたは最高位の『死神』と呼ばれる人でした。
 その地位に就けるのは、僅か四人でした。それぞれ、銃術、棒術、剣術、体術を極めていました。
 あなたは、剣術の中でも刀術を極め、四人の中で最も相手に苦痛を与えない処刑人でした。そして、最も現場を汚さなかった。血の一滴たりとも、現場に残しませんでした。もし、血が残されていたら、生存者がいるとされるほどでした。

 この国での『暗殺者』の役職は、人々が安全に暮らすための仕組みでした。稀に特権階級や市民階級の富裕層の人々の一部が、賄賂などで罪が軽くなることがあります。
 王や大臣たちは、その事実に警告する権力も無く、その対応策として『暗殺者』の役職を作りました。『暗殺者』とは、見張り役と始末役を兼ねた役目でした。その役職を信頼する家々に、裏家業として、血縁関係なく、実力がある者のみに就かせました。

 あなたは、その役職を全うし、その生涯を閉じました。
 
 あなたは、処刑した罪人の子どもたちを必ず引き取り、自分の子どものようにたくさんの愛を注ぎ、育てました。

 そして、あなたは、よく私にこう話してくれました。
『わたしの自慢の子どもたち、わたしの宝物たち』と。とても嬉しそうに、とても幸せそうに。
 

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