『待雪草』 初めて彼女を見たとき、頭に浮かんだ。
彼女は、絹のような髪、白磁のような肌、紫翡翠をはめ込んだような瞳をしていた。
まだ齢三、四の子どもだった彼女は、刀に魅入られた。
彼女は、こちらをじっと見る。和多志の刀を振るう姿を、稽古する姿を、いつも凝視した。
今の平和な世で、女である彼女が、刀を振るう必要がない。そもそも、彼女はこの家の人間では無い。あくまでも、此処に一時的に預けられただけに過ぎない。
この家の家業は、御様御用(おためしごよう)。刀剣の試し斬り役にして、死刑執行人。
この家で刀を習うということは、死刑執行人になることと同意義なのだ。
「刀を習いたいか。」と、和多志は彼女に問うた。
「はい。」と、彼女は凛とした、真っ直ぐな眼で応えた。
「和多志の見習いとなり、相応の努力をすれば、死刑執行人になれる。女は、死刑執行人には成れない。女を捨てる覚悟は、有るのか。」と、和多志は彼女に問うた。
「はい。」と、彼女は覚悟を決めた眼をしていた。
後に、彼女は首の皮一枚だけ残し斬首する、最年少の死刑執行人となる。
そして、その技力から後世に語り継がれることとなる。
7/30/2023, 4:29:52 PM