親愛なる貴女へ
わたしたちの愛しい娘よ、わたしたちの宝物よ、如何お過ごしでしょうか。
貴女とまた手紙ではあるけれど、つながりを持てることを嬉しく思います。
今でも貴女との思い出が 眼に浮かびます。貴女との別れほど、辛いものはありませんでした。
でも、それが貴女が決めた道でしたね。
もう憶えていないかもしれませんが、幼い頃の貴女は わたしたちを守るために、この道に進んでくれました。
逆らえば わたしたち家族が殺されることを勘づいていたように見えました。
あの時の貴女は わたしはこの道に進みたいと、この命を全うしたいと、言ってくれました。
貴女の聡く、優しい気遣いが、わたしたち家族を救ってくれていました。
最後になりますが、どんな貴女でも 紛れもなく大切な家族で わたしたちの愛しい娘です。
どうか、これからは、自分のために生きて下さいね。
貴女を愛する両親より
鳥に成りたい。鳥になって、大空に羽ばたきたい。
今日で終わりにしよう。貴方を忘れようとするのは…。
貴方は、私の相棒だった。貴方は、いつも他人を優先する。死際でさえ、仇を取ろうとする私を止めた。妹の為に…。貴方は、優しく、清く、正しい。そんな貴方が、私より先に死ぬのは、どう考えてもおかしい。私とは違い、貴方は身内の死にいつも心を痛め、涙を流していた。貴方は、決して人の道を違えなかった…そんな強さは、私には無かった。貴方は決して割り切らず、心を殺さない強さが有った。
あの時、私を止めた貴方の決断は正しかったようだ。もしかすると、私より妹の方が復讐にむいている事を予感していたのかも知れない。貴方の仇は、妹が打った。私が仇を打ちたかったが、今回は仕方無い。貴方との、最後の誓いを破ることは私にも出来なかったようだ。
どうか、これからは安らかに睡るが良い。
墓石には、ワインの入ったグラスと、墓石に彫られた誕生日と同じ日付が記されたワインボトルが置かれていた。
『E』、私を仮にそう云おう。
仮に、私と対になる者を『W』と呼ぼう。
Wは、Eとは多くが異なる人だった。性別は勿論、価値観も異なる。Eとは異なり、Wは人を愛すことも愛されることも知っている人だった。
EとWの決定的な違いは、仕事への考え方だった。
Eは、何よりも依頼主からの指示に従順で忠実だった。Wは、何よりも独善的で、依頼主からの指示を平然と無視した。
Eは忠実さと従順さで、此の地位を掴んだ。しかし、Wは己の技力のみで、此の地位を掴んだ。
其れが…其の紛れもない事実が…Eには、辛かった。なによりも、残酷で…不平等な現実だった。Eには、運命に抗い、戦う知恵も…考える事さえ、無かった。
竹のように靭やかなで、蓮華のように泥の中でも咲く花のように生きる、W…貴方のように成りたかった。
『生き方は、人…其々、ふたつとして同じ人が居ないように、ふたつとして同じ生き方は存在しない。だから、己の生き方を恥じる事は無い。』
此の言葉を貴方から聞いた時、私は膝から崩れた…視界がぼやけ、涙が溢れて、溢れて、止まらなかった。
今迄、何度も…呪い続け、縛り続け、否定し続けた生き方が報われたように思えた。
言葉には、霊が宿る。言葉には、力があり、重みがある。見えるものでは、決して無い。しかし、多くの人々が計り知れないほどの永い時間を掛け、変化させ続けて来たものだ。
謂わば、言葉とは其の土地の歴史であり、文化であり、様々なものの根底なのだ。
今の時代は、遠く離れていても誰とでも連絡できる。
その言葉の相手と自分自身に与える影響力と重みを、気軽に連絡することが出来てしまうからこそ、実感することは難しいと思う。
言葉には、人の人生を変える力がある。
たった一言で…人を殺めることも、人を救うことも、出来てしまう。
言葉は、『諸刃の剣』という事実を決して忘れては無らない。