「となりでふわり」
急に昨晩誘ってくれたドライブ
行き先もあまり決めずに出発した
当時聞いてた音楽を鳴らして
市街地を抜けて走っていく
懐かしいね、と言いながらも
いつの間にほとんど聞かずに
くだらないことを話してた
お腹が空いたらその辺で食べて
行き先に迷ったら昔よく行った公園に向かってた
昔話をたくさんしたけど
別れたばかりの彼の話はしてこないのは
きっとどこかで聞いたからだよね
展望台からの景色を一緒に見ながら
向かい風に「ありがとう」と口ずさむ
「なんかいった?」とも聞かずにそばにいてくれる
それだけで気持ちがふわりと軽くなっていた
君がいてくれてよかった
「薄明シアター」
帰宅を急ぐ人達で溢れた
夕暮れ間近の地元の道を
彼女の手を引きながら駆けていく
耳を澄ませば
商店街の有線放送と
息を切らした彼女の声が聞こえてくる
柔らかいグミのようなオレンジから
パン工場の煙突の影が伸びてきて
始まりの時間が近いことを教えてくれる
時々振り返って彼女の方を見ると
弾んだ息のまま微笑んで
繋いだ手を握り返してくれた
河川敷の階段を登って降りて
遠くの線路から警笛が聞こえたら
辺りは暗くなって2人の物語が始まる
夜空のスクリーンは手を繋いだまま
まだおぼつかない月の光が
今と未来を優しく包んで照らしていた
「空 白」
空白が怖くて
予定を埋めて
他人と会って
仕事を務めて
余裕を失って
思考を止めて
外見を飾って
充実を装って
周りに誇って
自分を作って
時だけ過ぎて
無為が残った
「台風が過ぎて」が時間内に創作出来なかったので台風と同じページに「空白」を掲載させていただきます。大変見づらいですがご参照いただけると幸いですm(_ _)m
「失恋台風」
失恋した
彼から「別れよう」と言われた
彼のことが好きすぎて
いつも彼と一緒にいたくて
毎朝毎晩連絡して
休みのたびにおでかけして
友達との約束も断って
彼中心の生活をしてた
そんな私のことを
最初は「かわいい」とか
「ずっと一緒だよ」とか言ってくれてたのに
今では「重い」って言われてさよならなんて
変わったのならもっと早くに教えてほしかった
別れるなんて受け入れられないし信じられないし
どうしたらいいかわかんないし寝られないし
泣いてぶつけて暴れて叫んで
なにもする気がおきなくて
自分でもどうしようもない感情を
息を潜めて過ぎ去るのを待つしかなかった
一息ついて辺りを見渡せば
荒んだ気持ちに追い討ちをかけるように
壁は服は荒れて 床は涙で溢れ ベランダのカーテンは揺れていた
これからどうしたらいいか途方くれていたら
空は雲一つなく晴れ晴れしていた
「ひとりっ切り」
なんだか1人になりたくて
いろんな関係を切っていった
あとで戻せる保証はなかったけど
今は切ることが優先だった
最近仲良くなったバイト先の後輩や
産んで育ててくれた両親だって切っていった
あと先考えずに
細い関係も太い関係も手当たり次第に
途中「これは切らなくてもいいかな」と
躊躇することがあったけど
判別するのがめんどくさくなって
結局切っていくことにした
機械的に切ろうとしたけど
やっぱり切る瞬間に思い出したりして
散らかった糸を手に取るとじんわり温かく
自分の周りにはこんなに人がいるんだな、と思えたら
切るのを諦めて寝てみることにした
ひとりきりになるのは案外難しいのだ
「白」
赤と青を混ぜると紫ができた
青と緑を混ぜると青緑ができた
赤と緑を混ぜると茶色ができた
次から次へと変わってできる新しい色に
目を輝かせながら遊んでいた
「そうだ!」と今度は全部を混ぜてみた
どんな色ができるかわくわくしていると
色は消えて白になってしまった
器をひっくり返したり
何回も混ぜてみたけれど
消えてしまった色は元に戻らなかった
ちょっと寂しい気がしたけど
今度は白と混ぜてることにした