雪桜(引き継ぎ)

Open App

「薄明シアター」



帰宅を急ぐ人達で溢れた

夕暮れ間近の地元の道を

彼女の手を引きながら駆けていく

耳を澄ませば

商店街の有線放送と

息を切らした彼女の声が聞こえてくる

柔らかいグミのようなオレンジから

パン工場の煙突の影が伸びてきて

始まりの時間が近いことを教えてくれる

時々振り返って彼女の方を見ると

弾んだ息のまま微笑んで

繋いだ手を握り返してくれた

河川敷の階段を登って降りて

遠くの線路から警笛が聞こえたら

辺りは暗くなって2人の物語が始まる

夜空のスクリーンは手を繋いだまま

まだおぼつかない月の光が

今と未来を優しく包んで照らしていた

9/14/2025, 4:34:15 PM