【きらめき】
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【心の灯火】
私はさすらいの人魂。
思念のみ備わった火、言うなれば《心の灯火》です。
いつもはお客様が絶えないのですが、今日は台風でお越しにならず、消火されるゆえ外にも出れません。
そこでこうしてスマホにお邪魔し、あなたで暇を潰そうというわけなのです。
なに、悪戯をしようというのではありません。
少し昔話を聞いてくれればと思います――
――昔々あるところに、しがない給仕がおりました。
その給仕は尽くすことが何よりの幸せ。
とても満たされた日々を送っていたのです――
ある日までは。
その日のお客様は、酒癖が悪い方でございました。
随分と酔っ払っているようでしたので、お冷を差し上げたところ、
「水はいらん。酒を持ってこい」
と激昂し、持っていたライターで給仕に火をつけたのです。
給仕についた火はあっという間に店全体に燃え広がり、
それはそれは悲惨な現場となったようでございます。
給仕の怨念は火に宿り、今日も犯人を探し彷徨っております…
ほら、今はあなたの後ろに――
どうですか、少し怖かったでしょう。
こうして人間をからかうのが、今の生きがいなのでございます。
「悪戯しないって言っただろ」って?
すみません、そこまで含めて、悪戯でございました。
――私?
私は給仕とは無関係ですし、ただの作り話ですよ。
これで安心して眠れますね。
―――――――――――――――――――――――――
p.s――
このお題がお盆に来てたら、最高でございました。
【開けないLINE】
LINEどころかスマホすら開けないわ
や る こ と 多 す ぎ \(^o^)/
【不完全な僕】
フランケンシュタインの怪物。
屈強な体、高い知能、優れた心を持つ、完全無欠の人造人間である。ただ一つ、酷く醜い容姿を除いて――
ある日、怪物は聞いた。
「博士、なぜ僕をこんなにも醜く造ったのですか?」
博士の腕なら、怪物は”怪物”とならずに済んだかもしれない。怪物は訝しんだ。
「完壁な人造人間を造ろうとしながら、何故不完全な僕を生んだのですか」
怪物の口調に怒りとやるせなさが籠もる。
博士は怪物の目を真っ直ぐ見て言った―
「確かに」
【香水】
「こんにちは」
玄関を開けると、見知らぬ男が立っていた。
「私、こういうものでございます」
差し出された名刺には、香水業者の社名があった。
「やっぱり、香水業者ですか。今時、香水持ってない人なんていないですよ。」
いつもの業者ならこれで引き下がる。
だが、この男は違った。
「お宅は、どちらの香水をお使いに?」
「えー、確か今はゴードン社」
男がここぞとばかりに、テンプレの羅列を始める。
「うちの商品は、ゴードン社より個人識別性の高いものに仕上がっております、また香料のブレンドはオリジナルのアレンジができますので、他人の識別香と被りません。今ご購入いただければ、ここでブレンドして差し上げます」
なるほど、セールスで生き残るだけの性能があるわけだ。
しかし、こちらもただで買うわけにはいかない。
「でも、お高いんでしょ?」
「今ならたったの16000円」
即決で購入を決めると、男は満足そうに帰っていった。今のより4割は安いぞ、これ。
第三次世界大戦で視覚兵器の暴発が起きて、今では全人類が視力を制限して暮らす。
そんな中で需要が高まったのがニオイ、つまり香水だ。
需要の高まりによって値段も釣り上がり、今や国家産業にする国もある。他人へのアピール、アイデンティティの確立、そして何より個人の識別。香水に課された役割は多い―――
ぽーん。
12時の時報が鳴った。12時?今日の待ち合わせは、確か1時に駅前だった。着替えをし、視覚制御のアイマスクをつけ、買ったばかりの香水をつけて急いで家を出た。
「ごめん柚乃、待った?」
私は20分遅刻したが、臨菜はその20分後に来た。
オーソドックスなバラの香りに何故か珈琲の香りを混ぜているのが臨菜が臨菜たる証拠である。
「ゼンゼンマッテナイヨ」
「…絶対待ったよね、ごめん」
まあ香りと最低限の視覚しか頼りにならん世界で、
こんなことはザラである。
「いいよ、行こっか」
今日は終戦記念日で、ちょうど50回目の終戦記念平和祭である。街には屋台がずらりと並び、夜には大規模な花火が上がる。
「にしても、そんなにめでたいかね?こういうのって、やるとしても戦勝国じゃない?」
臨菜が素朴な疑問を投げかける。
「世界が見れなくなった時点で、勝ちも負けもなくなったらしいよ」
あの戦争は歴史上最も凄惨だったと言われる。
視覚が奪われ戦争継続が不可能になったことは、むしろ救いだったと言う人も多い。世界の多くの国は勝ったわけでも負けたわけでもないが、民衆的には戦争が終わったことが祭りにするほど嬉しかった。
「それに、屋台ハシゴして飯食ってるやつの言うセリフじゃないぞ」
臨菜はわざとらしく核心を突かれたような顔をして、
「核心を突かれた!」と言った。
浅すぎだぞ、お前の核心。
その後しばらくは、2人で花火を眺めていた。
花火の音はしっかり聞こえるが、鮮やかさは戦前に遠く及ばないのだろう。いつか綺麗な花火を、私は見たい。
気がつけば、口に出してしまっていた。
「…私さ」
「視覚制限装置、取ってみたいんだよね」
チーズハットグを食べる臨菜の手が止まる。
「それまたどうして」
臨菜がいつになく真剣な眼差しだ。普段おちゃらけてはいるが、間違ったことはちゃんと止めてくれる子だ。視覚制限を外しては危ない。誰もが知る常識である。
「だって、香水だけでバイト代飛ぶんだよ。生活必需品のくせに」
「待ち合わせすら、ままならない」
「それに―」
「この花火だって、もっときれいに見えるはずなのに」
視覚制限装置は、厚い服の繊維の隙間から世界を見るのと似ているという。輪郭がうっすら見えて、強い光をちょっと通すくらい。
「臨菜の顔も、ちゃんと見てみたい。」
私は気づけば、世の中に対する不満と、幼馴染にしては若干重い気がするセリフを吐いていた。そもそも装置を外すなど、常識外れにも程がある。
「いいよ」
「私も、死ぬまで幼馴染の顔を見れないのは嫌」
死ぬまでだなんて、大げさな言葉が彼女から出たことが嬉しかった。
「それに、世界がどんなか気になるじゃん?大丈夫だよ、ちょっとくらい」
なんだこいつ、シリアスと適当を反復横跳びしやがって。
世界は驚くほど眩しかった。閉じようとする瞼を持ち上げ、隣を見る。
そこにいたのは透けるように白い肌に、流れるようなのロングヘアの女性。これが臨菜。
「…綺麗じゃん。」
「嬉しいこといってくれんじゃーん!」
先程までの深刻さはどこへやら、フランクフルトを頬張りながら、背中をバシバシ叩く臨菜。さては残念美人だな?
「柚乃も可愛いーーー!」
照れ隠しで無視する。
「意外と、なんともないもんだ」
直で世界を見ているが、異常はない。
異常といえば、臨菜のテンションくらいだ。
「見てあれ!花火めっちゃきれい!花火!」
臨菜のはしゃぎっぷりに、身の心配など忘れてしまう。
「凄くない!?花火ってこんな凄かったの!?ねぇ柚乃!」
部分的に視覚制限の必要がなくなったと発表されるのは、終戦50周年を過ぎた最初の朝のことである。
今はまだ、祭りばやしと花火の音が、月と花火の光が、私たちを包んでいる。臨菜が言った。
「そういえば柚乃、香水変えた?」
「遅いわ」