タイムマシーン
タイムマシーンがあったらいいのに、って思うよね
何年も過去に戻りたいわけじゃないよ
何年も未来に行きたいわけでもないの
ほんの数十分前に行きたいの
布団で寝こけてる自分に向かって
「てめえそのまま寝てると電車間に合わなくなるだろうが早よ起きろ」
って叩き起してやりたいの
何年も過去に戻っても、どうせ自分の能力じゃ「あの時こうしてたら」をやりきれないだろうし、
何年も先に行って「あぁ、やっぱり自分はこうなってしまったか」って悲しくなりたくもないよね
だから日常のほんの些細な失敗をやり直せるように、ほんの数十分前に戻れるようになりたいな
特別な夜
雀荘で、赤三枚持った状態で立直。
一発で自摸って裏が乗った夜。
あの夜の財布の温かみを忘れない。
美しい
「美しい」
男は窓の外を眺めながら、ポツリと呟いた。
心で思ったことが、思うと同時に、つい口から漏れ出てしまった。そんなような響きだった。
窓の外はすぐ海である。
普段は濁って、灰色じみた波を立たせている海が、その日は嘘かと思うほど透き通り、翠色に照り映えていた。
海の底の砂まで見えて、小魚が2、3匹、遊ぶように泳いでいる。
鱗に光が反射して、きらきらと輝いた。
この世界にはもう何もない。
幾つかの国の、幾人かのお偉いさんが始めた争いごとがきっかけで、この世界にあるのは、旧時代の瓦礫の山だけだった。
美しい。
言ってしまってから男は、美しい、と思えるものがまだこの世に残されていたということに驚いていた。
どうして
どうしてこうなっちゃうんだろうなあ
いつも朝の身支度にかかる時間、計算しているんだよ
朝の電車の時間、駅までの徒歩時間、みんな計算しているんだよ
余裕持って起きてるんだよ
それなのになあ
どうして少しずつ後ろにズレていくのかな
どうして間に合わなくなっちゃうんだろう
どうして
どうして
君と一緒に
午前8時。
それはサラリーマンにとって魔の時間帯である。
都心に通勤する者たちは、ほぼ例外なく満員電車に押し込められている。
そうして勤務地に辿り着くまでの間、退屈や圧迫感をこらえるために、目の前の小さな板にしがみついている。
かくいう俺もその1人で、いつも通勤の苦痛を和らげるために苦心していた。
しかし、最近その苦しみを凌駕して余りあるものを見つけた。
推しだ。
彼女は通勤時間中のSNSのタイムラインにたまたま現れた。ステージの上で歌い踊る彼女に、俺は一瞬で心を奪われた。
それからというもの、俺の通勤は変わった。
電車の中では常に彼女のライブやSNS、YouTubeチャンネルをチェックする時間に早変わりした。
今では目的地に着く頃には
「なんだもう着いたのか。もうちょっとライブを見たかったのに」
と考える有様である。
苦痛な時間のはずが、推しの君と一緒だと天国に変わったのだ。
諸君、推しはいいぞ。
君も推しと通勤しよう。