美しい
「美しい」
男は窓の外を眺めながら、ポツリと呟いた。
心で思ったことが、思うと同時に、つい口から漏れ出てしまった。そんなような響きだった。
窓の外はすぐ海である。
普段は濁って、灰色じみた波を立たせている海が、その日は嘘かと思うほど透き通り、翠色に照り映えていた。
海の底の砂まで見えて、小魚が2、3匹、遊ぶように泳いでいる。
鱗に光が反射して、きらきらと輝いた。
この世界にはもう何もない。
幾つかの国の、幾人かのお偉いさんが始めた争いごとがきっかけで、この世界にあるのは、旧時代の瓦礫の山だけだった。
美しい。
言ってしまってから男は、美しい、と思えるものがまだこの世に残されていたということに驚いていた。
1/16/2026, 12:02:26 PM