まぶたにまで浮かぶ眩しい街明かり、赤い看板、青いイルミネーション、白、黄色の電光。
それら色めき立った東京に、ぽつんとちいさな公園。
団地の影に隠れ、カラフル電灯にも、月明かりにさえ照らされず、視界を助けるものはなにもない。
「すいまへん、すいません、勘弁してくらさい……ちゃうんえす……」
青縞柄のパジャマ姿の老人である。
ボタンはみんな開けられていて、かろうじて羽織っているというような様相。
額を土へへばりつけていた。
「じいちゃん、おうちいれてよおーっ」
赤いランドセルを背負った女の子が、老人のパジャマをひっぱり、叫んだ。
おさげを揺らしながら、「ねー、はやくぅ」急かすように跳ねるが、老人は変わらず「すいあせん、すみあせん……あれはとありの後藤が……」
「……もう!」
ちいさな唇を尖らせ、老人の丸まった背中を見つめる。
震える老人の手。ダラダラだらしなく染み出た汗粒。
老人の目線の方へ、首を向けてみる。
「じいちゃぁん、なにに謝ってるの?」
ブランコ。夜、東京、公園、ブランコ。
座面にはなにも乗っていない。老人から返事はない。
女の子は、顔をギュッと縮こませ、唇をとがらせ、もう片方のブランコに飛び乗った。
「風邪ひいちゃうよ……」
暗い公園の方に足を伸ばし、暗い茂みの方に足を折りたたむ。
女の子はなんとなく、老人のほうを向きながらブランコを漕いだ。
「じいちゃん。ママ、今日も帰んなかったよ」
老人が頭をあげたので、女の子はハッ、と口を開け、わずかに口角を上げた。
しかし期待とは裏腹に、老人はブランコに向かって言い訳をしはじめた。
わざとらしくムスッとして見せ、下を向きながらより深くブランコを漕ぐ。
「じいちゃんだって、だれもむかえにこなかったんでしょ。ねえ……おうちいれてよ」
女の子は鼻水をぬぐった。
雪がとけちゃう。わたしは眠りからさめた。
わたしを包む、お母さんの大きな翼から、ズリズリ、わたしのちいさな翼をだすと、スーっと冷たい風が触れて、翼がかたく縮んじゃった。
でもいかなきゃ。
黒いわたしのちいさな頭を、黒い全身を、ほそい足を出して、お母さんの顔をみる。
わたしにそっくり。まだねてる。
さ、いよいよ外に出る。
目の前には、細長い四角形型に漏れ出す、白い光と白い地面!とってもきれいで、わたしの白い息すらわずらわしい。
そして四角形型からわたしは落ちた。
白い地面が目の前をおおう。寒さに怯えるわたしの翼!
地面から頭をそらせ、翼ではばたく!
「ジ、ジ、ジ……!」
わたしは鳴いた。
白い、冷たい地面からグングン離れる、ああ、さむい!
つめたい指先、長い爪先さえ凍りついたような、このかんじ!
わたしは飛んだ。
鳥のように、綺麗にまっすぐ飛ぶことはできないけれど、ずっとずっと、たのしそうに飛べる。わたしはこの飛び方がすき。
「ジジジ、ジジジ、ジジジ」
飛びながら、後ろ足を雪に触れさせてみる。
ふしぎなかんじ!新な芝に触れたときのような、ばらの花のくきを握っちゃったときのような……!
思わず高く鳴いちゃった、その時反響する音があることに気がついた。
目の前の、みどりに白に茶、と色とりどりな岩がある。そこにいる!
すぐ飛んで、岩に親指をひっかけてしがみついた。
てっぺんにいるカタツムリは、わたしを見下げて頭をふってくれた。私も耳をクイクイ動かして、返事を返す。
わたしのちいさな友人。また来年も、雪といっしょにわたしのちいさな友人はあいさつしてくれるだろうか。