テツオ

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8/13/2024, 12:34:26 PM

ダメだ、死にそうだ。
胃をイナゴで埋め尽くされているような……
その一匹一匹が蠢き、その頭や尻で内壁をプクプク押されているような……
鮮烈で、強烈で、鈍い胃痛……

僕は絶賛それに犯され、足の指を丸めながら、身を縮めて座っていた。
耳では、アンダーテールの実況プレイを流し、精神の均衡を保とうとする。

「内蔵全部痛い」

なんか膀胱も痛いし、食道も痛いし、腸も痛いし、なんなんだ。
痛みに疲弊し寝転びたいと思ったが、寝転んだらさっき流し込んだ食事が逆流してくる可能性しか感じなかった。

「ぐっぐぐ」

このままでは痛みに心が潰れる、そうなればもう一貫のおしまいだ、一年は立ち直れない。
僕はできる限り腕を伸ばし、机に置いてあるスケッチブックを、掴んだ。

尻が上がっていたので、安心にまた下ろすと、内蔵がタプっと揺れて、ガタガタ体が震える。

「バカか……、バカやん、……」

フーフー、肩で息をする。
ある程度収まってきたら、スケッチブックを捲った。
僕がよく使っているスケッチブックだ、そこにはサンズの絵が貯まりまくっている。

六年、だ。六年サンズを描き続けてきた……

とにかく、僕は自分の描いたサンズを見て、心を癒そうとした。
ペリっと捲る……鉛筆の匂いがフワッと漂う。
左手で描いたような雑さのサンズがいた。
ペリっと捲る……クロッキーが出てきた。
捲る……クロッキー、クロッキー、クロッキー……
しかも、全部そんなに上手くない。

やっと捲って、やっとマトモなサンズが出てきた。
……汗ダラダラで嘔吐しているサンズだった。

「もらいゲロするわ!!!」

スケッチブックを手から落とすと、バサッと音が鳴って、床に転がる。
いや、サンズからのもらいゲロなら別に良いかもしれない、が、そもそもサンズはゲロなんて吐かない、儚い二次元ファン妄想に過ぎない、ダウト……

「はっ」

……心の健康が一気に崩れるのを感じる。

一目散に体を折り曲げ、ぐっと襲ってきた吐き気を知らんぷりし、スケッチブックを拾うと、また一目散に捲った。
……マンガだ!!

「う、う、去年描いたやつだ、ありがとう……!」

一コマ目、まあまあ上手くかけた覚えのある、手と、二コマ目、かわいいサンズ。三コマ目、かわいいやり取り、四コマ目にして、いきなり終末的な雰囲気漂う荒廃した世界の背景が……

「集中砲火、精神に」

僕は大人しくスマホを開き、通知を確認し、痛みに悶えながらこのアプリで打っている。
アンダーテールの実況プレイしている動画を片っ端から見て回ってやる、という夢を綴り、心に希望を持たせ、まだ死ねない、とまた綴った。


トイレで下痢したら収まりました、以下、
下痢中の痛みを紛らわすためれんだしてたものたちの残骸。
汚いです。

(あああああああああああああああああ、ああああああ<あああああああああい
ああ
<オナラだしたいオナラだしたいオナラだしたいごめんなひい、ごめんなひい、やらあああああああ<今夜はねがじでっおねがいっ、痛いのやなのおおおおおおおおおおおおおお制裁すんなよなにもしてないのに!!!、!まえがみきふだけにしてくれやいたいたいたい、いたい、ステロイドああああああああああああああああああああああああああああああいあああああいあああああああ朝サンズんちゃん、んんんんんんぐぐぐぐぐかさんずちゃ、サンズちゃ…・・…・・、はあはあはあはあモールス信号みあいになっあはあああいサンズちや、なにをした、なにをしたんの、テツオはなにをした、ら
こうなるの、生牡蠣でも食ったのか、かあさあんサンズ。。。。。。。んんんんサンズちゃ、サンズぢゃゃゃゃゃゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁサンズ、サンズ、サンズサンズ、サンズ、サンズ、サンズ、サンズ、サンズ、サンズ、サンズがおかあさんだった育児放棄されてるな、痛み増しになってきたよ、ありがとね、サンズちゃんんんん肛門しんじゃう、もんね。サンズちゃんんんんんわんんん、白いシャツでカレーうどんとか食いにいって案の定跡つけてほしー、ああああああああ
痛みが上下してる、イナゴが卵産んでる、胃で痛みの泡が弾けてる、死肛門、下痢ラやめろ、ただのオナラしろよ、おおおおおおおおおおおおおおガス抜き、ガス抜き、くそそそそさそそ・
はあはあはあはあはあひあはあはあはあはあさあはあははあ連打してなきゃやってらんないらふりっく入力できてよかった、えんげ〜じだっち、ブラインドタッチできるんも、ぐぐぐくぐぐぐいいあアイアアアアイ値、まサンズちゃん、この痛み体験したらしんじゃラウう、サンズちゃんが本来受けるはずだったこの痛みを、てつおは肩代わりしてあげてるんだ、本来はサンズちゃんのもの、サンズちゃんの落し物、サンズが持ってたものを今もってるんだよおよおおおおお!!、!!!
サンズちゃんらさちん)

以下、極度のストレスに置かれていたときの精神を書きだめしていたもの。
個人の解釈と考え多分に含む。

(突然、脳がなにかに舐められる感覚を思い知った。
 気色の悪いその感覚に震える間もなく、他でもない自分の足が縫い付けられている地球がグンニャグンニャと揺れ、その地球が宇宙のどこかへ落ちていくような……
 しばらくその感覚に悶えた。その間の頭の中というのはそれこそむちゃくちゃのグチャグチャで、鎮静剤をいれられた後のぼんやりとした頭のようだった。
 
 収まって始めて、自分の体中に酷い力が入っていたと気がつき、それを緩めた。
 ふぅ、と息をつき、今の状態がなんと言うのか不思議に思っていると、昔風呂場でとんでもない吐き気と徒労感とに襲われ、倒れそうになった挙句尿を垂れ流しにしたことを思い出した。
 
 それとこれとは、同じ類の……病気なんではないか?
 関連付けて止まず、どんどんと不安になっていく。
 不安が泥のように蟠り、そこに足を突っ込んで沈んでいくようなものだ。
 
 「……うわああああ……」
 
 文字に起こしてみるととてつもない絶叫のようになるが、実はそうではなく、ただ「う」と「あ」を続けて発声しているだけの絶叫などとは程遠い、だらしない声だ。
 時々こうしては自分の不安に終止符を打つ。
 それでも止まらなかったり、このやり方を思い出せない時は検索ツールを開けて欄にうわあああああああ、と予測変換が出ないほど打ち込む。
 
 この方法はなぜか本当に効くので、全人類が試すべきだとそう思う。
 
 「いやしかしだ、果たして全人類へ私のやり方が本当に効くと言えるのか?」
 
 それはそうだが、今のは誇張表現という小説お得意の、文法という類なのだ、気にせずとも誰もなにも言うまい。
 
 「ムムム、そうなると、つまりだ……よく見る、ネタが分からない人が叩いている、という状況と似たようなものになる……という訳か?
 今思ったのだが、それは……逃げなのではないのか。万人受けするものを書かなくてなにが執筆者か。それに、それを試して効かなかった被害者の気持ちはどうなる!」
 
 ……私が考える本来の執筆者と、甚だしくズレている。
 恐らく私は混乱しているのだな。
 つまり、あの「うわああああ」が効かなかったというわけだ。
 全人類の件は誇張表現に過ぎないという証明だな。
 
 「ふざけている。なにが証明だ。誇張表現ではなにを言ってもいいのか」
 
 いやいや、誇張表現にも色々あるだろうが、大きくわけて、いけない誇張表現と、ただ創作の域をでない誇張表現……
 いやまてよ、今の誇張表現は一体どちらに入るのだろうか……?
 
 「バカめ皆そこに迷ってろくな表現ができずにいるのだ」
 
 いやそんなわけはない。皆そういった迷う表現は避けて、別のいい表現を探しているのだ。
 
 「つまり今の世に必要なのは忍耐力と!そういうわけか!」
 
 どういったプロセスでそこに至ったのかは知らないが、そういうわけだ。
 
 「まてまてまて、そのプロセスを書けなくて、なにが執筆者か!!」
 
 そう思うならそのプロセスを書けないことで悩んでいないでプロセスの説明を悩めばいいだろう、悩む場所が間違っている。
 
 「……お前にはカギカッコがないだけで、私と同一人物だ。つまり私は私の力で私へ問題提起できているのか、……それはつまり、とんでもない天才なんでは?」
 
 いやいや、驕るんじゃない、そんなのは全人類皆出来るぞ……
 まて、この誇張表現はダメなのか……
 
 「ムムムムム……悩みというのは尽きないものだ……」
 「口調変だぞフリスク」
 
 とまあこうして、サンズというキャラをいれることによって、全ての問題は解決されるわけだ。みんな家族とか、友人とか、自分以外のなんらかの生き物(無機物でもよし)を大切にしよう。
 こういった時、なにもない真っ白な空間でいるといよいよこの問題提起が終わらないんや、たぶん)

うつとか、ストレス障害は思ったよりも酷い。
よく視界が灰色になると言われるが、あながち間違っていない。
わたしの場合は色が極度に強く、パキパキして感じられた。
地球がいつ爆発してもおかしくない、いま爆発したらどうしよう、とか考えて眠れなかったりしたので、統合失調症一歩手前だったのかもしれないと思う。
飯もろくにくえず、拒食症のようにやせ細っていて、母を泣かせた。
一日中イッテQを見て精神を保ち、とにかくそういう「限界すぎて辛いとき」は「楽しいとか、好きだと思うもの」を探すのが一番大切だろうなと思う。
わたし個人の範疇に過ぎないが。
例えばわたしは、サンズが好きだし、ゴットタレントを面白く思ってずっと見ていたし、録画のイッテQで笑って、Hulu契約してイッテQを見まくって……
海に行って、回復して、また落ちてを繰り返し、麻痺したのかなんなのか、なんだか平気になった。

8/13/2024, 5:42:38 AM

君の心臓は、ベートーベンも弾けない。


金で、顔面を整備する嬢子と、わたしが腰掛けるコンクリート道路は、ロクに“踏む”人間もない、という点から同等だ。

コンクリート道の左方は、田んぼのために落窪んである。
わたしは、その、30センチホドある窪みへ足をつっこんでいて、田んぼから発せられる生ぬるい温度と、暑くうるさいカエルの鳴き声を、浮いた足裏へ感じていた。

「あわい初恋、消えた日は……
雨がシト、シト、ふっていたぁ……」

さめざめと歌う。
カエルがほとんどかき消すし、このコンクリート道は、車が通れるほど太くなく、自転車が通るほど先になにかある訳でもない。

わたしは、田んぼの水面を見つめながら、足を揺らした。

「幼い、わたしは、胸こがし……
慕い続けた、人の、名は……」

別段、この歌に思い入れがある訳では無い。
気がつくと、頭の中に流れているのが、この曲であるというだけだ。

ふと、田んぼの水面に波紋が広がる。
タニシが跳ねたんだな、そうに違いないな。


飛び降りて、ジーンと足が響く。
その余韻に歩けずいるわたしを、自転車で追い越しながら、君は笑った。

「運動神経が悪い人だな、とか、
思われてんだろうな」

君が自転車で下って行った坂を、わたしは登る。

四方八方から飛ぶセミの鳴き声。
耳に、腕に、足にまでまとわりついて、だるい。

汗がジンジン湧いてきて、タポタポ、山道の傾斜を滑る。
滑って、すべって、山を降りて、君の自転車に踏まれて、散って、って、暑さで脳までうだってんのかな。

だんだん、フラっとしてきて、セミのやんちゃな声が遠くなっていって、フラフラして、すごーくうがうがして、次には目の前に、地面があった。


倒れる。
フカッとベッドが反発して、わたしは、シーツの底から浮いてくる。

「連絡先ゲットォ……っ!」

わたしの手には、携帯。
モゾっとベッドでもがき、枕に這い寄って、頭をのせた。

なんて送ろうかな。

『佐々木です』
「佐々木です……」

声に出して読んでみて、眉間にシワをよせた。

『今日連絡先もらった、佐々木です😀‼️』
「今日連絡先もらった佐々木です……!」

すぐに、×ボタンを押し込む。

『こんばんわ、佐々木です。よろしくね』
「こんばんわ、さ……ないな」

×ボタンを連打して、文字ボックスがクリーンになると、またわたしの頭も真っ白になる。

エアコンから出てくる冷たい空気、脳を冷やすにはまだまだぬるい。

「あ」

携帯に目を落とすと、いつのまにか、君から連絡来てた。
メッセージと、その横の既読、時間表示と、携帯の左上にある時計を見比べる……

「はずっ……っかし!」

なにを送ろうかって、試行錯誤してたのが全部バレたみたいな、顔の赤さだったと思う。


今のわたしの顔も、熱を持っていて、髪は水かぶったみたいにへばりついている。
暑くむさ苦しい顔で、涼しい恋の歌歌ってんだもんな、妖怪だな。

わたしが歌うのを止めても、カエルはやめない。
はじめから、聞こえてないみたいな。

ため息つくのも億劫で、足をコンクリートに上げるのも億劫で、なにもしない自分も億劫だ。

足元を見て、脱げそうなサンダルを見つめて、それが時々ぼやけては、瞬きすると、田んぼの水に波紋がある。

どう思われてたんだろう。
君の心臓は、ベートーベンも弾けない。
だろうな。

「んへ、っフフフ……」


8/11/2024, 1:35:22 PM

キャップなんぞ被っていたら、頭皮の汗がひどくなって、蒸し暑く、痒くなってくる。 その点麦わら帽子は穴だらけだから、風通しがいい。

ミンミンミン、セミが爆発しそうな勢いで叫び散らして、暑さとうだっている。
腕は汗でべたべた、服は当たり前に張り付いて、僕は首をカクンと後ろへ倒し、巻いた氷の冷たさを感じた。

立ち上がる気力もない。

下げてた水筒が、ベンチへ、がッと衝突した。
寝転ぼうとおもって、体を傾けたら、そうなった。

足は下ろしたまんま、ぐでーっと寝転ぶ。
被っていた麦わら帽子のツバが折れた。

さっきとあまり景色は変わらないが、耳が片っぽ塞がれて、セミの声や、木々のささやきは遠くなる。

目を閉じた。

こうすると、セミとか木々のささやきとか、暑さは、どこか別のところから感じているように思える。
胸からピンポン玉みたいな、僕の魂が出てきて、大地を揉んだ風にのまれる。

涼しい。

そう思っていたら、涼しくなる。
ほら、なんかめっちゃ、ほっぺが冷たい。
眉間にシワをよせて、目をほそーく開けてみると、目の前にズボンが見えた。

「……熱中症になるよ」

わっと思って起き上がると、そのひともわっと驚いた。手には、水のペットボトルがある。
ほっぺに手を当てると、そこだけ冬みたいだったのに、そのくせ汗はひどいから、肌と肌同士がベッタリした。

「顔、めっちゃ赤いな。大丈夫?」

そのひとは、僕に、その水を差し出してきてくれる。

「いや……」

僕が水筒の紐をたぐりよせて、水筒握って、そのひとにんッと見せたら、そのひとは「そっか」と言ってひっこめた。
そんで、僕の隣にすわった。
僕が水筒のフタをポンッと開けると、そのひとも遅れてキャップを回す。
氷でキンキンの水をゴキュッと飲んだ。
チラと隣を見る。
そのひとは飲まずに、僕の方をじっと見ていて、目が合った。

「ビックリしたよ。倒れてんのかと」

柔らかい笑顔でそう言われて、僕は水を飲みながら「ンッン」と笑う。

「いや、笑い事じゃないんだけどさ……」

僕が水筒から口を離して、カチッとフタを閉めると、そのひとはペットボトルを口に当てて、水流し込んだ。
結露で生まれた水滴が、そのひとの顎や手に滑って、地面へふる。気持ちよさそうに。

そのひとはペットボトルを口から外して、キャップを締めると、立ち上がる。

「そんじゃあ。気をつけなよ」

軽く手をあげて、公園から出ていった。
なにしにきたのか、わからない。

けどいいひとだった。
麦わら帽子被っててよかったな。
もしキャップ被ってたら、きっともうとっくに家へ帰ってたもんな。

ベンチにふともも打ち付けながら、空見ると、入道雲が立派に育ってる。

8/1/2024, 3:48:36 PM

うしろから、トンと手が置かれたので振り返ると、見慣れたニヤニヤ顔があった。

肩の手を上げると、ヒラ、揺らす。

「よ」

そいつは手を下ろし、ズボンのポケットへ落っことした。
もう片方の腕をおもむろに上げる。

上がってきた手には缶ソーダ。
そいつはク、と頭を傾ける。

「そこ、座ろうぜ」

缶を握っていた、人差し指をチョイっと出して、ぼくの背を指した。


「ぷはーッ……っあ〜、サイコーだな」

そいつが振り下ろした缶ソーダが、トプっと鳴る。
ぼくはそれを、隣で眺めていた。

「それ、ぼくのじゃないの」
「ほしいのか?だったら自分で買えよ、
小遣いあるだろ」

そういうことではない。
あれだけおもむろに、缶ソーダを見せつけられたら、おごりかと思う。
だが、今こいつの背からそれ以上の缶が出現することは、なかった。

「そういえば君は、そんなヤツだったね……」
「へへへ、おまえ、オレと会う度、毎回同じこと言ってるぜ」

ぼくの顔を下から覗き込み、ぼくもそいつの、バカにしたような笑顔を見下ろす。
顔をそらすと、笑われた。

「ハー、おまえといると楽しいよ。
からかい甲斐があ、る!」
「うっ」

ボスボスと、背後から頭を撫でられる。
あんまり激しく、というか、撫でられること自体不服なので、その手をひっぺがそうと、両手を上げた。

「あ゛〜〜!」

頭の上で逃げ回り、撫で回してくる片手。
両手を使って掴もうとしているだけだ!それなのに、なぜかいつのまにか身体中が動き、バタバタと足を打ち鳴らしていた。

身体をバタバタする拍子に、振り向いてしまった。

目の前に心底楽しそうな笑顔でいるそいつがいた。

心底、悔しい。

「……もう」
「ん?どした」

ぼくが抵抗をやめると、そいつは笑顔を止め、撫でる手も撤退させた。
……まるでデタラメだ。

「君は、ぼくが嫌がることをしたいの? 」
「……言ったろ?おまえはからかい甲斐があるって」

そいつは身体も引くと、缶ソーダをまたグイッと飲む。

「……」

は〜、という息を聞く。
……顔を向けると、そいつもぼくへ顔を向けた。

「え」

笑顔が固まり、次には面食らう。
してやったりだ。
ぼくは、そいつの空いた手を掴みあげ、自分から頭を撫でさせていた。

「……へへ」

小さく笑ったのを合図に、そいつは頬をプクッと膨らませ、かと思えば吹き出す。
ダハハと、豪快に笑い、揺れながら途切れ途切れに「なに、したり顔で、」と話した。

ぼくは途端に、こんな程度を復讐と言っている自分が恥ずかしくなり始める。
だが、今さら撫でさせる手を止めることもできず、ただ、目の前のヤツが爆笑しているのを黙視していた。

「ひーッ、笑い死ぬとこだぜ……」

ヒドイもんだ。
自分には、からかいの才能が無いらしい。
いや、こいつにからかいの才能が集約しているだけなのか。

からかってやったはずが、からかわれたように恥ずかしい。

「よしよし、お望み通り撫でてやろう」

そいつはまだ半笑いで、ソーダを飲み干すと、座るベンチへ置いた。
そうして、ぼくの方へ飛びつくように、勢いよく撫でかかる。

右左と激しく往復する頭、ヤツの手。
もうぼくはなにも言うことも、することもなく、ほとんど脱力していた。

ふと、そいつはぼくから手のひらを離し、ニコ、とぼくへ笑いかける。

「明日も晴れるといいな」

なぜか。

「おまえがここにいるから」

7/14/2024, 1:10:43 AM

映画をみたあとに
「同年代で、こんな面白い映画を知ってるのは僕だけだろう」
という優越感がある。

だがこれは、優越感を得るために自らの脳へ虚言を塗りたくっているに過ぎなかった。

最近みた中でこう感じたのは「パール」という映画だったので、それは言いきれる。
有名で、おそらく見た人は多いだろうに、僕には上記の優越感があった。

その優越感が薄れる頃、つまりは今だ。
今、僕はたしかな劣等感を感じていた。

「こんなふうに面白い小説を書きたいが、どうしてもできない」

という劣等感だ。
いつもそうだが、優越感なんかの自分の得な感情よりも、劣等感のような、気分が落ち込む感情の方が、地に足ついてて現実的、なように思えるのは、なぜなんだろう。

とにかく、僕はまるで面白い作品が書けない。
いや、書こうとすらしておらず、それが一番の問題だった。

僕は映画がすきで、映像で物語を見せるやり方が大好きだ。
それを小説でやりたかった。
だけど無茶だと思う。

今だって僕は、感情をただ連ねているだけであって、今自分がどこに座ってどんな姿勢でなんの媒体を使って書いているのか、すら、ここにはない。

だけども、できるに違いない、今よりは理想に近づけるに違いない、という思いも共にあった。

やはり、自分に得な感情は、浮き足立っていて、非現実的だ。
理想を語るだけだから、そうなのだろう。


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