ことり、

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4/12/2025, 1:06:20 PM

風景


日常を過ごしていて、ふと
風景が鮮やかに浮かぶことがある

車で通ったあの道

あの人と歩いた公園

二度ともう、行けない、行かない風景たち

わたしの脳から いつかは
零(こぼ)れ落ちる風景

誰にも伝えられないわたしだけの風景

箱庭のよう わたしの脳に咲く
風景たち…

4/11/2025, 3:54:23 AM

夢へ!


夢なんか無い。ただ生き延びる。
かっぱらい、
万引き置き引きなんでもござれ。
この街で脚だけは早くなった。
浮浪児なんて皆見ない。視界に入りこそすれ
彼らは風景だ。
壁の落書きや酒瓶のケースと同じ。
彼らは街のそこらのがらくたと同意だった。

そんなある日。
腹を空かせた彼は、
街角のパン屋の店先からパンをくすねた。
盗られるようなところに置くのが悪い。

「あっコラ、待てクソガキ!」
客には愛想のいい店主が、本音の顔を見せて
よたよたと追いかける。
その隙に仲間がもう2つ、3つと
パンをくすねているだろう。

大通りを駆け抜け、脇道を通り、
柵を越えて。

彼はこの脚でどこまでも。

しかし、横道から現れた壮年の男性に、
彼ははっとして立ち止まった。
その男は伝説の短距離ランナー。
この街の誇りだ。
2人は何も言わずに見つめあった。
過去と、未来が交錯する。

「…小僧、良い目と脚をしている。
ついてくるか?」

彼は夢への道へ、今、走り出す。

4/10/2025, 3:53:28 AM

元気かな


あの日の自分に聞かれたなら
こう答える

元気だよ
家族ができたよ
夫は優しくて
子どもたちは可愛くて
義理の両親も元気だよ
義兄も 義妹もとても良くしてくれるよ
泣けそうなくらい幸せだよ

と嘘をつく

4/9/2025, 4:00:19 AM

遠い約束


「ヤエ、ぜったい、しあわせになるんだよ、
ぜったいだよ。」

そう固く手を握って、
送り出してくれた友人たち。

顔も覚えていない。
無理もない。その頃私は小学生だった。

虐待疑い、児童相談所、一時保護、
児童養護施設入所。

目まぐるしく人生のステージが変わった。
上記のことは、私が里親に出る時の話。
養子縁組もした。

それから時は流れ。

「えへへ、どうかな?」
広い試着室を出て、
ヤエはくるりとターンした。
ずっと憧れていた、プリンセスラインという
ウエストから裾がふわりと広がる、
お姫様スタイルのウエディングドレスだ。

「ヤエっ…」母は、
言葉に詰まり下を向いた。

「いいじゃなーい」
新郎のタケルだ。
「やだ、なんか軽い」
ヤエはむくれてみせた。

そして、「お母さん、
泣くなら本番にしてよー」と笑った。

その時
母は涙に濡れた顔で、
「ヤエ、ぜったい、しあわせになるんだよ、
約束だよ」
とヤエの手を握りしめた。

瞬間、ヤエのこれまでの人生が
突風のように頭の中を駆け抜けた。
あの時も、この時も。
幸せを願ってくれた人たち。
言葉をくれた、もう覚えていない友人。
助けるとか、行動はなくとも、
遠くで無事を祈ってくれた人。 
今となっては、
顔も名前もわからない人たちに、
支えられていたんだ。


ヤエは、母の手を握り返し、
「うん、約束する。」

タケルも若干のもらい泣きをしながら
手を添えた。


3人で抱き合って泣いた、
忘れられない試着室。

4/8/2025, 5:46:29 AM

フラワー


あなたがうまれたとき
大地の草木はいっせいに花をつけた
季節も種類も関係なく

チューリップもパンジーも
ラベンダーもカーネーションも
コスモスもマリーゴールドも
シクラメンもクリスマスローズも

辛夷も梅も桜も木蓮も
山法師も百日紅も
萩も金木犀も
山茶花も椿も

毎日毎日花に溢れ
全てが生きていることを謳歌する
そんな素晴らしい日々

あなたがしぬとき
大地は 空は 海は 歌を歌うだろう
狼や虎
猿や象 熊に すべての鳥たち
鯨や海豚(いるか) 海驢(あしか)までも

あなたの存在を
全ての命が悼むだろう
そのものたちの心が満たされるまで
葬送は続くだろう

あなたがいきている いま
それは何者にも変え難い
素晴らしい時間なのです

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