遠い約束
「ヤエ、ぜったい、しあわせになるんだよ、
ぜったいだよ。」
そう固く手を握って、
送り出してくれた友人たち。
顔も覚えていない。
無理もない。その頃私は小学生だった。
虐待疑い、児童相談所、一時保護、
児童養護施設入所。
目まぐるしく人生のステージが変わった。
上記のことは、私が里親に出る時の話。
養子縁組もした。
それから時は流れ。
「えへへ、どうかな?」
広い試着室を出て、
ヤエはくるりとターンした。
ずっと憧れていた、プリンセスラインという
ウエストから裾がふわりと広がる、
お姫様スタイルのウエディングドレスだ。
「ヤエっ…」母は、
言葉に詰まり下を向いた。
「いいじゃなーい」
新郎のタケルだ。
「やだ、なんか軽い」
ヤエはむくれてみせた。
そして、「お母さん、
泣くなら本番にしてよー」と笑った。
その時
母は涙に濡れた顔で、
「ヤエ、ぜったい、しあわせになるんだよ、
約束だよ」
とヤエの手を握りしめた。
瞬間、ヤエのこれまでの人生が
突風のように頭の中を駆け抜けた。
あの時も、この時も。
幸せを願ってくれた人たち。
言葉をくれた、もう覚えていない友人。
助けるとか、行動はなくとも、
遠くで無事を祈ってくれた人。
今となっては、
顔も名前もわからない人たちに、
支えられていたんだ。
ヤエは、母の手を握り返し、
「うん、約束する。」
タケルも若干のもらい泣きをしながら
手を添えた。
3人で抱き合って泣いた、
忘れられない試着室。
4/9/2025, 4:00:19 AM