ことり、

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夢へ!


夢なんか無い。ただ生き延びる。
かっぱらい、
万引き置き引きなんでもござれ。
この街で脚だけは早くなった。
浮浪児なんて皆見ない。視界に入りこそすれ
彼らは風景だ。
壁の落書きや酒瓶のケースと同じ。
彼らは街のそこらのがらくたと同意だった。

そんなある日。
腹を空かせた彼は、
街角のパン屋の店先からパンをくすねた。
盗られるようなところに置くのが悪い。

「あっコラ、待てクソガキ!」
客には愛想のいい店主が、本音の顔を見せて
よたよたと追いかける。
その隙に仲間がもう2つ、3つと
パンをくすねているだろう。

大通りを駆け抜け、脇道を通り、
柵を越えて。

彼はこの脚でどこまでも。

しかし、横道から現れた壮年の男性に、
彼ははっとして立ち止まった。
その男は伝説の短距離ランナー。
この街の誇りだ。
2人は何も言わずに見つめあった。
過去と、未来が交錯する。

「…小僧、良い目と脚をしている。
ついてくるか?」

彼は夢への道へ、今、走り出す。

4/11/2025, 3:54:23 AM