列車に乗って
…ここはどこだろう。
柔らかくもそっけない座席。
目の前には鏡のようなものがあり、
自分の不安そうな顔が写っている。
耳がキンとなって、漸くここはトンネルの中とわかった。列車に乗っている。
かなり長いトンネルだ。前から後ろに向かっているのだが、落ちているような感覚。
不思議の国のアリスもかくもありなん。
前方が明るくなって、
トンネルの出口が見えてきた。
そうだ、切符。切符を見れば
目的地がわかる。ポケットを探る。
そこでわかったが、携帯も財布もなかった。
なぜか二つ折りの使い捨てマスクだけある。
右尻ポケットに切符を見つけた。が、
「なんだこれ」
出発地は自宅の最寄駅。
目的地はモザイクがかかっているのか
ぼやっとしている。老眼か?
目を凝らすと
何かわからない字で書いてあるのがわかった。
そんな漢字は知らない。
と思っているうちにトンネルを抜けた。
ここは、いや、そんなわけはない、
だってあの駅は、駅は…
「廃線になったのに」
実家のあった町の、
廃線になったあの駅だった。
遠くの街へ
あの日夢見た街に住んで居る。
ライブ参戦の度、上京した街。
この街に住めば、毎日のように
ライブハウスにでも、映画館にでも、
美術館にでも、通い放題だ!
そう思った街。
懐に飛び込めない街。懐に飛び込まない街。
愛しているふりをする街。
愛されているふりをする街。
棄ててきた町が有る。
好きな店や、お気に入りの風景、
仲の良い人達も居た。でも。
「愛」も「情」も感じられない人が居た。
それを他の人達は「家族」
と言うのだと教えてくれた。
「女は三界に家無し」意味は違うけれど、
まさにそんな感じだ。
街には馴染めず、町には戻れず、
私はどこでもないここでいつまで待てば良いのだろう。
女は三界に家無し
女は、幼少のときは親に従い、嫁に行っては夫に従い、老いては子に従わなければならないものであるから、この広い世界で、どこにも安住できるところがない。三界は仏語で、欲界・色界・無色界、すなわち全世界のこと
ネットより引用
現実逃避
キエテナクナリタイ
命を絶ちたいわけではない
ただ、この場から
初めからいなかったかのように
どこから間違ったのだろう
出産?
結婚?
引越?
就職?
卒業?
受験?
入学?
誕生?
平行世界のわたしを探す
あのとき どんな選択をしたなら
間違わなかったのか
そう思いながら
キャベツを刻む
人参を刻む
玉ねぎを刻む
玉ねぎを刻む
玉ねぎを刻む
小さな命
「皆んなで、飼おう!そしたら
マリーも寂しくないし、皆んなで、
ちょっとずつ餌持ってきたら良いし!」
そうして私たちは、公民館裏の物置の陰で、ノラネコ マリーを皆んなで
飼うことにした。マリーは仔猫ではなく
成猫だったので、私たちが家族に「飼って」と言ってもダメだろうと思ったからだ。
給食の余った牛乳、パン、小パックの鰹節、
今にして思えば、そりゃダメよ、
てな餌だけど、マリーは私たちが行くと、
物置の陰から飛び出してきて、
必死で餌を食べ、私たちにその白い体を
撫でさせた。呼吸で上下する腹。
指で鼻あいさつの時のひやっとした感触。
マリーはこの小さな秘密基地で、
その小さな命を生きていた。
いつまでもこの生活が続くと思っていた。
思いたかった。
しかしある日、当然の如く大人にバレた。
マリーの行方は…薄情なことに記憶に無い。私たちの仲間が引き取ったのか、或いは。
それから半年ほど経った頃、
マリーに似た仔猫を、私たちの仲間が
公民館裏の物置のあたりで見かけた、という風の噂を付け加えておこう。
太陽のような
「ユウキくん、すっごく良い笑顔ね
ユウキくんが居ると、あったかくて、
お日様に照らされてるみたい…って、
言い過ぎかな?」
うん、ママ、言い過ぎだよ
わたし知ってるから
ユウキくんが
校庭の隅で虫を捕まえて
ころして
埋めてるの知ってるから
そのほかのことも
いえないくらいのことも
太陽と同じくらいの質量のやみを
持ってるの 知ってるから