ことり、

Open App

列車に乗って


…ここはどこだろう。
柔らかくもそっけない座席。
目の前には鏡のようなものがあり、
自分の不安そうな顔が写っている。
耳がキンとなって、漸くここはトンネルの中とわかった。列車に乗っている。
かなり長いトンネルだ。前から後ろに向かっているのだが、落ちているような感覚。
不思議の国のアリスもかくもありなん。

前方が明るくなって、
トンネルの出口が見えてきた。
そうだ、切符。切符を見れば
目的地がわかる。ポケットを探る。
そこでわかったが、携帯も財布もなかった。
なぜか二つ折りの使い捨てマスクだけある。
右尻ポケットに切符を見つけた。が、
「なんだこれ」
出発地は自宅の最寄駅。
目的地はモザイクがかかっているのか
ぼやっとしている。老眼か?
目を凝らすと
何かわからない字で書いてあるのがわかった。
そんな漢字は知らない。

と思っているうちにトンネルを抜けた。
ここは、いや、そんなわけはない、
だってあの駅は、駅は…
「廃線になったのに」
実家のあった町の、
廃線になったあの駅だった。

3/1/2024, 6:04:58 AM