1000年先も
「1000年先の未来も、私たちは生き残る。」
「私たちは、未来の子ども。
大切なのは、共有、共同の精神。」
毎朝の経典の復唱。
私たちは、ある教団に属している。
ここでは、戦争や災害が起ころうとも、
生き残ることができるように、
サバイバル術の習得や、備蓄に励む。
そして、特徴的なのは、
「個」は存在しないことだ。
家族で入信した人も、
家族の単位は解体され、
ばらばらで生活する。
個人の持ち物はなく、
服や食器、寝る所なども共有、共同。
そうすることで、
個人の力が最大限発揮され、
終末の日さえ乗り越えられる。
と、思っていた。本気で。
「脱走者だ!捕まえろ!」
「東の崖だ!追い詰めろ!」
いやだ。いやだ。いやだ。
もうこんなところはいやだ。
俺は戻るんだ。1000年先の未来より今だ。
今が大事なんだ。共有、共同?
そんなものどうだっていい、飛べーーー。
その日、東の崖から1人の男が飛んだ。
その後の彼の行方は、杳(よう)として知れない。
勿忘草(わすれなぐさ)
呆(ほう)けた母の いつもの電話
ゆう子 学校に行ったまま 帰ってこん
川に はまっとらーせんだろうか
人さらいに あっとらーせんだろうか
ゆう子が泣いとる 早う乳やらないけん
母よ 母よ ゆう子は私
あなたの電話している 相手がゆう子
ゆう子はもう 結婚して子供がいる
母にとっての孫を 母は
ゆう子だといって離そうとしない
私 母に愛されていないと思っていた
だけど こんなにも愛されていた
あの日の私を
あの日の母を失った今 わかるなんて
過ぎ去りし日の母
思い出の中の ゆう子
アメリカには「祖父母の日」があり、
孫が花などをプレゼントする習慣がある。
定番の花は、勿忘草。
ブランコ
俳句
ふ
ら
こ
こ
や
こ
の
街
の
空
恣
季語 ふらここ ブランコのこと
春の季語
恣 は ほしいまま と読む
旅路の果てに
そいつ
冷蔵庫の片隅で痛んでる
けたたましい2割引きシールのチリソース瓶
その鬱屈(うっくつ)を
古(いにしえ)の教室
机に名札のピンで刻ませたら
「そいつ」は確かににやりと笑った
好きでも嫌いでもなかった
お土産のクッキー缶
古ぼけた蓋で
小学生らしい我が儘を押し込めた
(マティス ダリ 太郎 ヘリング)
誰に出す宛ても無い美術展の絵葉書の
静謐(せいひつ)な引き出しに
あの日見た瑠璃色の髪切虫の遺骸(いがい)を忍ばせる
給食袋 割烹着 アイロンがけ
かけっこ2等賞 青リボン
女の子同士守る ブルマ白線
ご飯の日の牛乳 違和感も一飲み
アプリで見るスーパーの2色チラシ
ベランダ プランター 育つ青ネギ
2日目の唐揚げ 酢豚へリメイク
私の中にいる「そいつ」
守っているようで守られて
救っているようで救われて
人生が旅なら、
「そいつ」はきっと
草臥(くたび)れたブーツなのだろう
書き込みの多い地図なのだろう
調子の悪いランプなのだろう
よく切れるナイフなのだろう
あなたに届けたい
俳句
君
に
降
る
六
花
全
て
を
食
べ
て
や
る
季語 六花 りっか 雪のこと
冬の季語