窓越しに見えるのは、月から見た地球の姿。
ここは月面の、廃棄寸前の街。
月面開発が行われたのは、とうの昔の話。
今は金が無く、地球にも帰れず、
どこにも行く宛のない訳あり者たちの街。
かつては俺も、腕ききの科学者だった。
今じゃ安酒で酔い潰れる毎日。
安酒では悪夢ばかりで、
まともな夢も見れない。
夢…。科学の最先端の月で、
金も、地位も名誉も全て手に入る、
夢。
全てを捨ててきた地球。
今じゃ逆に俺を見下ろしてる。
夢。
今日街角のタロット占い師をひやかしたら、
良いカードを引いた。
今夜は少しでもまともな夢が見られるといいな…。
「私にとって
運命の赤い糸で結ばれた相手は
ただ1人 あなただけ」
娘の時分に読んだ、ロマンス小説ばりの
そんなセリフを言えるのは、
現実に何人いるだろう。
結婚した人の六割は、
離婚を考えたことがあるという。
私も例に漏れずその何割かの1人。
ちくちくとしたモラハラ風嫌味。
家事も育児も、私がギリギリ耐えれるだけの負荷をかけてくる。
絶対離婚してやる!という決定打は無い。
今、私の赤い糸の片方は、
ふらふらと風に吹かれている。
誰がそれを捕まえてくれるのか、なんて、
白馬の王子様を私は、
こんなオバサンになっても、
夢見ているらしい。
今宵は昔読んだ小説でも引っ張り出して、 ハラハラドキドキしてみるか。
夫とはとうに別寝室。
誰に気兼ねするでもなく。
「運命の赤い糸切れてる時間」を楽しもう。
その向こうには何があるのか。
消えかけの虹。
校区境の踏切。
薄暗い鳥居。
そして入道雲。
自転車をがしゃがしゃ漕ぐ。
朝、入道雲はもう空にある。
見下ろされながら時間と戦う。
横断歩道で待ちながら一息ついていると、
青信号を待ちきれない生徒たちが
次々と追い抜いていく。
慌てて真似する。
やっと着いた自転車置き場から飛び出す。
校門をくぐる。
帰宅部の私の自主練のような、
毎朝の儀式。
その向こうに何があるのか。
その旅はいつも途中で終わり。
始業の鐘が雲の峰に響く。
夏 夏は夜
夜、花火。
記憶の中の花火を見ている自分は、
決して独りではない。
友人と、恋人と、家族と。
友人だった人が、恋人となり、家族となる。
それをずっと花火は見ていた。
一瞬で花開き、散る花火は
連綿と続くそれを見ていた。
一瞬と 永遠と
夏はその繰り返し。
ここではないどこか。
ココデハナイドコカ。
どこでもないここか?
どこでもあるいまか。
かえりたい
かえりたい
どこかへ
かえりたい
春 北国に帰る渡り鳥
秋 産卵のため川を遡上する鮭
彼らを見るたび強烈に思う
かえりたい
どこへ?
渦の中心
始まりの螺旋
銀河の
排水溝の
その向こう
はじまりのばしょへ
はじまって、おわる ばしょへ。