今はまだない羽を広げて飛んでるつもり
待ってて
「待ってて」
枯れた花束を左手に持ち、
萎れた花束を右手に持ち、
私は、私自身を生花のように誇らしげに、
仁王立ちのまま、
顔を引きつらせ、
まだ消えない凄まじい太陽のフレアに向かって、
ただただ仁王立ちのまま、
体を溶かし続ける。
ただれて熟れて、
熱くて苦しくて、
切ないとさえ思える頃には、
私は何かになっているだろうか。
何かになろうと、まだ思っているだろうか。
「花束」
―――それをどこで知ったんだ?
男の背中から一気に汗が引き吹き出た。
待ち合わせた喫茶店の、人気No.1のランチメニューを注文する女を凝視した。
特別に美しく揃えているわけではないが醜い程でもない、清潔とも不潔とも言い難い平凡な爪。
平凡な女。
俺の愛した女。
女は、届きたてのオムライスを口に入れながら俺の方をチラリと見た。
平凡な大きさの甘そうな唇、俺の愛する唇。
何も言わず、ただお互いが思うままに食べ、ただ時間だけが過ぎていく。
「ねえ」
女が口元を拭いながら言った。
俺の愛する平凡な声。
取り立てて目立つところのない、どこにでもありそうな目立つことのない声。
「私、見たのよ?」
体や頭はそのまま、そっと申し訳なさそうに目だけを動かし俺を見上げる。
俺の心を溶かす、その愛すべき瞳。
俺は背中を伝う汗をなだめるかのように答える。
「何を?」
答えは返ってこなかった。
二人分のレシートを持ち、女は去って行った。
女は去り際にこう言った。
「どこにも書けないこと」
俺は思った。
―――書かずに今言えばいいじゃないか。
くだらない。
「どこにも書けないこと」
柔らかな平穏も
塊の愛憎も
これからの未来も
この肉の端くれの唇の虜
それは可能性
時間も命も淡くたくましく触れて現れる
本能の欲望も
欲望の本脳も
その瞬間に
その命に
淡くたくましく触れて去っていく
「Kiss」
平安時代の歌人ももういない
1000年先ももういない
何を何かを
痕跡を今ここに残した
大海原の中に?
電脳の囲われた世界の中に今
「1000年先も」