冬はコタツでみかん。
我が家ではお決まりの光景だ。
僕と君と三人の子供たち。
人数が多いからスーパーで買ってもすぐに無くなる。
食べ出すとついあともう一個と、誰もが手を伸ばしてしまう。
「今年はなかなかなくならないなぁ・・・・・・」
子供たちが寝静まったあと、僕は一人でコタツに入り、みかんが積まれたカゴを見つめながら呟いた。
「いちばん食べてたのも君だったものね」
みかんのカゴの隣で写真立てに収められた君が笑う。
僕はそっとカゴからみかんを一個掴み、皮をむいてその一房を口に入れた。
噛むと果汁が口に広がる。
少し酸っぱいみかんだった。
『残念、貴方のはハズレだったみたいね』
そう言って何だか勝ち誇ったように笑む君が脳裏に浮かぶ。僕がハズレを引くと、君は必ずその後に、自分が剥いた甘いみかんを半分お裾分けしてくれて、勿体ないからと、僕のハズレのみかんを半分食べてくれる。
「きっと丸々一個、酸っぱいのを食べたせいだ」
だからこんなに涙が溢れてくるんだ。
【みかん】
胸の真ん中にぽっかりとした空虚感があるのに
胸の奥には冷たくて苦しいほどの蟠りがある
自分じゃどうしようもできない
誰かの灯火に少しでもいいから
あたりたい
そうすれば冷たかった何かが
溶けていくような気がする
それは分かってるんだけど
うまくできないから
いつも寂しい
【寂しさ】
あなたとあなた。
そして、あなたやあなたやあなた。
出会った人、関わった人。
出会わなかったけれど、わたしの生きる道のどこかに関わってくれた誰か。
そうした人達に注がれた愛情で。
わたしという存在はできているのです。
【愛を注いで】
さよならは言わないで
だってまだ
あなたに再び会えることを
こんなにも望んでいるのだから
【さよならは言わないで】
わたしは生まれながらに醜い子
容姿は歪で肌には大きな痣がある
誰もわたしを見なかった
あからさまに目を背け
眉根を寄せて忌み嫌う
誰もが全身でわたしの存在を拒絶する
わたしはここにいるはずなのに
わたしはどこにもいなかった
わたしは常に膝を抱えて道端に蹲る
ここにいるはずなのにどこにもいないわたしは
どこに居ればいいかもわからなかった
けれどなるべくわたしは外に出るようにした
特に空が澄んだよく晴れた日は
だって家の中は暗いし寒い
たとえ誰に見向きもされなくても
よく晴れた日は座る地面があたたかくて
降り注ぐ陽光が
柔らかに視界を明るく照らしてくれるから
「もし、そこのあなた」
わたしがいつものように道端にいると
ふいに呼び掛けられた
「ちょいと道をお尋ねしたいのですが」
わたしを呼んだのは旅の人のようだった
旅人の声につい顔を上げてしまったわたしは
慌てて長い髪を下ろして顔を隠す
「おや、すみません。驚かしてしまいましたか?」
「ううん、違うの。わたし醜いから。あまり見てもいいものでないの」
わたしがそう言うと
旅人が不思議そうに首を傾げる
「ぼくは朝からずっと道に迷っていました。ここであなたの姿を見つけて、どれだけほっとしたことか」
ふいに旅人は微笑んだ
「むしろ、ぼくにとっての光明です。あなたに会えてぼくは幸運だ」
旅人の笑顔が眩しくわたしの目に映る
何故だろう
今日は一段とお日様の下が心地良い
【太陽の下で】