さよならは言わないで
だってまだ
あなたに再び会えることを
こんなにも望んでいるのだから
【さよならは言わないで】
わたしは生まれながらに醜い子
容姿は歪で肌には大きな痣がある
誰もわたしを見なかった
あからさまに目を背け
眉根を寄せて忌み嫌う
誰もが全身でわたしの存在を拒絶する
わたしはここにいるはずなのに
わたしはどこにもいなかった
わたしは常に膝を抱えて道端に蹲る
ここにいるはずなのにどこにもいないわたしは
どこに居ればいいかもわからなかった
けれどなるべくわたしは外に出るようにした
特に空が澄んだよく晴れた日は
だって家の中は暗いし寒い
たとえ誰に見向きもされなくても
よく晴れた日は座る地面があたたかくて
降り注ぐ陽光が
柔らかに視界を明るく照らしてくれるから
「もし、そこのあなた」
わたしがいつものように道端にいると
ふいに呼び掛けられた
「ちょいと道をお尋ねしたいのですが」
わたしを呼んだのは旅の人のようだった
旅人の声につい顔を上げてしまったわたしは
慌てて長い髪を下ろして顔を隠す
「おや、すみません。驚かしてしまいましたか?」
「ううん、違うの。わたし醜いから。あまり見てもいいものでないの」
わたしがそう言うと
旅人が不思議そうに首を傾げる
「ぼくは朝からずっと道に迷っていました。ここであなたの姿を見つけて、どれだけほっとしたことか」
ふいに旅人は微笑んだ
「むしろ、ぼくにとっての光明です。あなたに会えてぼくは幸運だ」
旅人の笑顔が眩しくわたしの目に映る
何故だろう
今日は一段とお日様の下が心地良い
【太陽の下で】
冬生まれの貴方に
プレゼントとしてセーターを買った
貴方に似合う
落ち着いた色合いのセーターを選んだつもり
サイズもたぶん合ってると思うけど
気に入ってくれるかな?
男物の服なんて
正直はじめて買ったから
レジを通すのにすごく緊張した
もうこれ以上ないくらい緊張したから
きっと貴方に渡す時は
幾分か和らいだ気持ちで
プレゼントできると思う
早く貴方に会いたいな
【セーター】
あなたと離れ離れになるくらいなら
このまま一緒に身を投げよう
わたしは本気でそう思っていたのに
あなたはわたしの手を振り払い
慌てたように去って行った
【はなればなれ】
僕の背には生まれながらに白く大きな羽根がはえている。
けれどそれだけだ。
僕は生まれてから一度だってあの広い空へ飛び出したことがない。
僕の羽根は生まれながらに動かない。
つまりこの羽根はただの飾りだ。
飛べない翼に何の意味があるのだろう。
ずっとそう思っていたけれど。
ある日出会った小さな子供が言った。
「すごいね。こんな綺麗な羽根見たことない。また見に来てもいい? お兄ちゃんの羽根を見ていると、僕、すごく安心するんだ」
ある日出会った彼女が言った。
「あなたが飛んで行かないで、ずっとここに居てくれたから、私はあなたと出会えたの」
──ここに居てくれて、ありがとう。
そうか。
そうだったのか。
僕は僕のままでいいんだと、いつの間にか僕は飛べない翼を嘆くことをやめていた。
【飛べない翼】