小さな店の軒先で。
君と二人きりで雨宿り。
予期せぬ通り雨に感謝をしつつ。
「すぐに止みそうで良かったね」と笑う君の隣で。
まだ行かないでくれと。
遠離る雨粒に強く縋ってみたり。
【通り雨】
何気なく歩いていると、ふと小さな虫の声が耳を過る。
頬に当たる風が涼しげに触れていき、空気がさらりとするようになる。
そんなふうに気付いたら、いつの間にか秋はやって来る。
けれど過ぎ去って行くのも早いから、秋は少し物悲しい季節な気がする。
【秋🍁】
何も知らない土地に引っ越した。
初めての場所。
初めての風景。
とても緊張していたけれど。
いつしか窓から見える景色に。
心安らぐようになって。
一日の終わりに、ああ、疲れたなぁと。
溜息が自然に出て肩を下ろせるようになると。
僕はここが自分の帰る場所になったのかなと。
そんな自覚をし始めて。
ああ、良かったなぁと、ほっとする。
【窓から見える景色】
カッコイイもの。
好きなもの。
便利なもの。
流行ってるもの。
高価なもの。
そんなものに憧れては。
手に入れたくて頑張ってみたりもするけれど。
ひとりになった時。
ふと頭が空っぽになって。
心の中も何だか空虚になった時。
そんな時、衝動的に欲しくなるものは。
いつも形の無いものばかりなんだよな。
【形の無いもの】
ある時、僕が公園でひとりぼっちで遊んでいると、「ねぇ、一緒にあれに登ろうよ」と、いつの間にか知らない男の子が寄ってきていて、敷地の真ん中にある大きなジャングルジムを指さした。
僕はあまり気乗りがしなかったけれど、男の子があまりにも強く誘うものだから断れなかった。僕が頷くと男の子は満面の笑みになって僕をジャングルジムの方へ引っ張っていく。近くで見るとあまりにも大きく感じるその遊具の存在に、僕はひっそりと息を飲み込んだ。
「君はここから、僕はあっちからスタートするから、先に天辺まで登ったほうが勝ちね」
そう言い置いた男の子は、僕がいる所の向かい側に位置する場所に回り込んでいった。
「じぁあ、行くよー!」と、遠くから聞こえる男の子の声を合図に、僕はジャングルジムを登り始める。慎重に一歩一歩、上へ上へと手足を動かした。
「あ」と、途中で僕は声を上げる。登ろうとした足が滑り掴んでいた手を離してしまった。幸いにもまだ低い位置であったから、浮いていた足が地面についた途端、尻餅をついただけで済んだ。
僕は地面に座ったままジャングルジムを見上げる。奇妙なことにさっきの男の子の姿がどこにもなかった。代わりに「チッ」と、耳の側で誰かが舌を打ったような音がした。
僕はさっきまで話していたはずの男の子がいなくなったことが不思議だったけど、またジャングルジムに登る気も失せてしまって、その日はそのまま家に帰ったのだった。
それから、これはずいぶんと後になって知ったことだけど、あのジャングルジムに登った子供が天辺から落下するような事故が何件か起こったらしい。そのせいであの遊具はしばらく使用禁止になっていたそうだ。
次にもし僕があの男の子に会ったら、落ちたら危ないからジャングルジムはやめて別のもので遊ぼうと誘ってみることにしよう。
【ジャングルジム】