ある時、僕が公園でひとりぼっちで遊んでいると、「ねぇ、一緒にあれに登ろうよ」と、いつの間にか知らない男の子が寄ってきていて、敷地の真ん中にある大きなジャングルジムを指さした。
僕はあまり気乗りがしなかったけれど、男の子があまりにも強く誘うものだから断れなかった。僕が頷くと男の子は満面の笑みになって僕をジャングルジムの方へ引っ張っていく。近くで見るとあまりにも大きく感じるその遊具の存在に、僕はひっそりと息を飲み込んだ。
「君はここから、僕はあっちからスタートするから、先に天辺まで登ったほうが勝ちね」
そう言い置いた男の子は、僕がいる所の向かい側に位置する場所に回り込んでいった。
「じぁあ、行くよー!」と、遠くから聞こえる男の子の声を合図に、僕はジャングルジムを登り始める。慎重に一歩一歩、上へ上へと手足を動かした。
「あ」と、途中で僕は声を上げる。登ろうとした足が滑り掴んでいた手を離してしまった。幸いにもまだ一段目あたりであったから、浮いていた足が地面についた途端、尻餅をついただけで済んだ。
僕は地面に座ったままジャングルジムを見上げる。奇妙なことにさっきの男の子の姿がどこにもなかった。代わりに「チッ」と、耳の側で誰かが舌を打ったような音がした。
僕はさっきまで話していたはずの男の子がいなくなったことが不思議だったけど、またジャングルジムに登る気も失せてしまって、その日はそのまま家に帰ったのだった。
それから、これはずいぶんと後になって知ったことだけど、あのジャングルジムに登った子供が天辺から落下するような事故が何件か起こったらしい。そのせいであの遊具はしばらく使用禁止になっていたそうだ。
次にもし僕があの男の子に会ったら、落ちたら危ないからジャングルジムはやめて別のもので遊ぼうと誘ってみることにしよう。
【ジャングルジム】
9/24/2023, 4:58:19 AM