ずっと開けないLINEがある。
それに既読をつけたら返事をしなければならない。
返事をしなくても、読んだことが相手に知られた時点で、私の止まっていた感情は答えを出さなければならない。
受け入れるか、拒絶するか。
さよならするか、追い縋るか。
そんな醜い自分に会いたくない。
でも開かずにしらばっくれるほど図太くもない。
開けないLINEはまるで重りのようだ。
軽やかな音の通知音が鳴るたびに、私は重りの存在を思い出す。
今日こそは解き放とうと決意をしてみたり、でも、できなかったり。
【開けないLINE】
人と目を合わせられないし
面白い話題も振れないし
流行にも疎いし
何より上手く話せない
それなのに
いっちょまえに寂しさは感じる
こんな不完全な僕を
受け入れてほしいっていう
夢ばかり見てる
【不完全な僕】
彼が迂闊にも送ってきた結婚式の招待状。
彼がくれた甘い香りを吹きかけて。
行ってやろうと思ってる。
馬鹿なあいつが自分の結婚相手に。
同じ香水を贈っていなきゃいいけれど。
まあ私には関係ないわよね。
【香水】
そこに。
言葉はいらない、ただ・・・触れるだけでいい。
ただそれだけができれば。
このゲームは終われる。
「ぎゃー!? 何か毛があるっ! モフっとした感触がある~!」
「大丈夫だって。危ないものは入ってないから」
「絶対だな。その言葉、信じるからな!」
出題者は椅子に腰かけながら優雅に頷いている。
私は再び箱の左右側面にあいた穴に腕を突っ込んだ。誰だよ。文化祭の出し物に中身当てクイズなんて案を出したの。
早く終わらせたい一心で、私はとうとう覚悟を決める。生物なんか入ってたら目の前のこいつを殴ってやろうと、固く心に誓いながら。
【言葉はいらない、ただ・・・】
「今夜泊まらせて?」
突然やってきたそいつは、何とも清々しい笑顔でそう宣った。
「帰れ」
玄関の扉を半分ほど開いていた俺は、そのまま部屋に戻ろうとする。
「いや、ちょっと待って! なぁ、頼む、この通り! お前だけしか友達いないんだよぉ」
何とも虚しい事実を暴露しながら友人が食い下がってくるが、よくよく考えると俺自身にも友達と呼べるのはこいつくらいだったことを思い出す。
「・・・・・・お前なぁ、いくら友達だからってちょっとは配慮しろ」
「大丈夫、着替え諸々は持参してきた! 食費だってちゃんと払う用意はできてる!」
「そういうことじゃねぇ・・・・・・。まぁ、いいや。あまり散らかすなよ」
「サンキュー、心の友よ!」
そいつは意気揚々と上がり込む。ちょうど午前中に掃除をしたばっかだったのが幸いだった。
「あ」
そこで俺はあることを思い出す。
「おい、やっぱ、ちょっと待て・・・・・・」
「なあ、お前の洗濯物たたんでやろうか?」
「絶対に、触るなよ!」
俺は途中になってた、取り込んだばかりの洗濯物の存在を思い出す。
「あ、お前って、パンツはトランクス派なんだなぁ」
そう言ったそいつの手には、俺のパンツが躊躇いなく掲げられていた。
「おい、コラッ! ふざけんな!」
やっぱこいつはタチが悪い。女らしいとこはひとつもねぇのに、顔はまあまあ美少女なのがさらに憎らしかった。
「やっぱりお前、帰れ!」
俺はもう足掻いても仕方ないとは分かっていながらも、思いっきり叫んでやった。
【突然の君の訪問。】