ある国の王の前で4人の男が膝をついて畏まっていた。
王はこの4人が先の戦で多大なる貢献をしたと聞かされ、それぞれに褒美を取らせようと思い呼び集めたのだ。
1人は言う。わたしは多くの敵兵をこの手で打ち払い、戦いに勝利を収めました。
1人は言う。わたしはたくさんの武器を作り上げ、戦況を有利にしました。
1人は言う。わたしは屈強な兵士を幾人も育て上げ、戦場へと送りました。
彼らの為しえた功績を王は順番に聞いていく。最後の1人の話に王が耳を傾けようとした時、最後の1人は言った。
「自国も敵国も関係なく、わたしは戦地でたくさんの負傷兵に治療を施しました──」
最後の1人の言葉に、他の3人は驚いた。
どうして敵側の人間まで助けたのだと、各々から疑問が上がる。
最後の1人は静かに告げた。
「わたしはわたしの誇りを守るため、あの戦地に行ったのです。わたしのしたことをお認めできないのであれば、どうぞ褒美はなかったことに。わたしはそれで構いませんので」
口を噤んだ3人に、最後の1人は一歩も引かなかった。思案した王は3人には褒美を取らせ下がらせた。最後の1人と二人きりになり、王は改めてその者に問う。
「お前はどの地へ行っても同じ事をするのか?」
「もちろんです」
王はその者に褒美を取らせた。そして、もうひとつ、その者に命じた。
この国に大きな病院を作れ。今や平和になろうとしているこの地に、かつての敵国だからといって、いつまでも憎しみを持つ者ばかりいては真の平和は訪れない。
お前はその憎しみを晴らすための第一の礎となるのだ。
最後の1人は深く頭を垂れると、自国の王に尊敬と誇らしさを持って了承した。
【誇らしさ】
怖いくらいに暗くなった海を
浜辺に立ち尽くしながら眺めていた
寄せて返す波の音が
まるで誘うように耳奥に響くものだから
ふと気を抜いたらあの夜の海へと
溶け込んでしまいたくなるので
わたしは慌てて
足元まで迫っていた冷たい水から
距離をとった
【夜の海】
自分の力でぐんぐんと進んで行く
風の影響をもろに受けるから
追い風の時は気持ちがいいくらいに速く
向かい風の時は押し戻されないように
必死に足に力を込める
何から何まで自分次第だけど
徒歩よりも快適で頼もしかった
今ではもう
車ばかりを使うようになってしまったけれど
たまにはあの頃を思い出して
また旅に出てみてもいいかもしれない
【自転車に乗って】
健康的な生活を送ってください。
医者として私が言えることはそれだけです。
幸福な日々を送ってください。
友として私が言えることはそれだけです。
あなたの心はあなたのものですが、あなたの命はあなた一人だけのものではありません。
ここにまたあなたと会って他愛もない話しをしたいと思う者がいることを。
どうか忘れないでくださいね。
【心の健康】
放課後の音楽室。
わたしとあなた。
二人きりだけの世界。
そこで緩やかに奏でられるピアノ曲。
今のあなたの唯一のオリジナルらしいけど。
わたしとあなた。
知っているのは二人だけ。
いつかこの音楽は。
誰もが知るようなものになるかもしれない。
そうなったらすごいことだけど。
どことなく寂しくも思う。
君の奏でる音楽はあまりにも素晴らしくて。
独り占めしたいだなんて。
そんなワガママ。
絶対に言わない代わりに。
今だけはわたしだけのために弾いて欲しい。
と、そう願う。
【君の奏でる音楽】