Yushiki

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4/17/2023, 8:52:46 PM

 人は何かを達成できなかった時、桜散るなんて表現をするらしいじゃないか。

 俺の頭上からそう告げたそいつは、綺麗な顔をこれでもかというほど意地悪く歪ませて、ニヤリと微笑んだ。

「だから何だって言うんだよ」

 俺はズズズっと鼻水を吸い上げ、涙でぐしゃぐしゃになった顔をそいつに向ける。

「いやいや、人間とは粋な表現をするものだと思ってね。それで小さき少年よ、こんな満開な桜の木の下で、君は何をそんなに落ち込んでいるんだね?」
「うるせー、お前なんかに言うかよ」
「おおかた女の子にでも振られたんだろ」

 うっ、と俺は言葉に詰まる。

「ちっげーよ。ただ……、負けたくない奴に、今日体育の100メートル走で勝てなかったっつーか」
「なるほど。そいつが恋のライバルか」

 うっ、とまた図星を衝かれ、俺はぎりっと奥歯に力を込めた。

「クッソー、何だよ、さっきから。俺のこと分かったように指摘しやがって」
「分かったようにじゃない。分かってるんだ。なんせ私はこの土地で、もう千年近くもの時を過ごしてきたんだぞ。たかが10年ほどしか生きてないひよっこ少年の思考など、読めて当たり前だろう」

 ははははっとそいつは意気揚々に笑う。桜の太い幹に悠々と腰を掛けて、俺にしか見えないたぶん人間じゃないそいつは、俺の胸中など知らぬように楽しげだった。

「俯くな、少年よ。こんなにも満開な桜を見ないだなんて勿体ないぞ。桜は確かにすぐ散るが、また来年も変わらず咲く。そこに在り続ける限りはな」

 俺はそいつの言葉につられて顔を上げた。ピンク色の綺麗な花弁からひらひらと小さな花びらが舞う。

「どうだ、少年よ。いっとき散ったからといって、嘆く必要などないと思わんか」

 散る様だって桜はこんなにも美しいのだからと、そいつが珍しく優しい声を出したので、俺は黙って涙を拭くと、「まあ、そうだな」と、ぶっきらぼうに頷いた。



【桜散る】

4/16/2023, 8:40:13 PM

「ここではないどこかで君と会えたら良かったんだけどなぁ」

 背中合わせに立つ彼が、飄々とした口調でそう嘯いてみせる。

「そうしたら一時のロマンスが始まっていたかもしれないだろ」

「馬鹿なこと言わないで」

 私は彼を振り返らない。
 ただ目の前にいる敵だけを見据え、銃を構える。

「ここではないどこかで貴方と出会っていたら、こうして言葉を交わすことすらあり得ないわ」

 貴方みたいな不穏で軽薄な人間に関わるなど、こんな物騒な事態に巻き込まれない限りお断りよ。

 そうはっきりと言い放ってやれば、背後の彼が「きっついなぁ」と可笑しそうに笑ってから、右前方にいた敵を銃で撃ち抜いた。

 視認できるだけで敵は20人。
 ひとり10人ってことで。よろしくね。

 ぽんっとエールを送るように肩を叩かれる。

 やっぱり私は振り返らず、構えた銃の引き金を引いた。



【ここではない、どこかで】

4/16/2023, 6:30:54 AM

 届かぬ想いなら
 いっそ捨ててしまおうか
 そう幾度も考えては
 けっきょく手放せず

 宝物のように箱にしまいこんでは
 大切さばかりが募っていく

 ああ 
 なんと厄介で
 なんて愛おしいのだろう

 いっそ届かぬほうが
 この愛しさの行方を知らずにすんで
 幸せなくらいなのかもしれない



【届かぬ想い】

4/14/2023, 10:42:09 AM

神様へ

こんにちは
毎日の日々をいかがお過ごしでしょうか

私たち人間はたびたび悩んでは頭を抱え
しまいには貴方頼みをしてしまうことが
多々ありますが
この一度きりの人生
そばで見守る貴方がたまにクスリと笑えるくらいは
日々を楽しんでいこうと邁進している所存です

どうかくだらない願いばかりをしてしまっても
話だけでも聞いてやってください
貴方がやれやれと内心呆れながらも
ただそこにいてくれると思うだけで
こちらはずいぶんと心が軽くなるものです

末筆ながら
貴方の存在に最大級の感謝と
未来永劫の繁栄を想いつつ



【神様へ】

4/13/2023, 8:32:15 PM

突き抜けるような青い空が
どこまでも飛んで行けそうなくらい広がっていて
清々しい世界の広大さを
明るく示してくれている

下を向いているのが勿体ないくらい
下を向いてなんていられなくなるくらい



【快晴】

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