「ここではないどこかで君と会えたら良かったんだけどなぁ」
背中合わせに立つ彼が、飄々とした口調でそう嘯いてみせる。
「そうしたら一時のロマンスが始まっていたかもしれないだろ」
「馬鹿なこと言わないで」
私は彼を振り返らない。
ただ目の前にいる敵だけを見据え、銃を構える。
「ここではないどこかで貴方と出会っていたら、こうして言葉を交わすことすらあり得ないわ」
貴方みたいな不穏で軽薄な人間に関わるなど、こんな物騒な事態に巻き込まれない限りお断りよ。
そうはっきりと言い放ってやれば、背後の彼が「きっついなぁ」と可笑しそうに笑ってから、右前方にいた敵を銃で撃ち抜いた。
視認できるだけで敵は20人。
ひとり10人ってことで。よろしくね。
ぽんっとエールを送るように肩を叩かれる。
やっぱり私は振り返らず、構えた銃の引き金を引いた。
【ここではない、どこかで】
4/16/2023, 8:40:13 PM