バカみたいなことばかり
必死になってやり続けていた
人に指を指されて嘲笑われたり
そんなことしても無駄だと呆れられたり
しまいには見下されて蔑まれたりもしたけれど
バカみたいなことだって
自分がいいと信じて
必死になってやり続けていったから
いま予想もしていなかったような
多大なる喝采と賞賛が
溢れんばかりに聞こえてくる
【バカみたい】
放課後の教室で二人きり
窓辺から差し込む夕日のオレンジ色が
お互いの姿を眩しく照らす
帰らないの? と私が問えば
帰りたくない と貴方は返す
そっか 私と同じだね と笑って言えば
このまま時間が止まればいいのに なんて
素敵な台詞を 言ってくれる
ああ そうだね
私と貴方 この二人だけの世界
ずっと続けばいいのにね なんて
叶わない願望を口にするつもりはないけれど
時々訪れる
二人ぼっちだけのこの空間が
私は好き
【二人ぼっち】
これは夢なのかな。
そう問い掛けたら、
そうだよ、夢だよ。
と言う、君の声が返ってくる。
夢だから、
醒める前に早く終わらせよ。
夢だから、
忘れてもいいんだし。
そうか。
これは夢なのか。
そう思ったら、
何故か涙が一筋こぼれ落ちてきた。
夢の中でなら君と思う存分愛し合える。
そこには僕らを苦しめた身分の差も、
僕らを別たせた戦争という残酷な悲劇も、
どこにもないのだから。
愛してるよ、と僕は言う。
私もよ、と君が返す。
けれど、ずっと一緒に居ようとは、
僕も君も言わなかった。
【夢が醒める前に】
失敗は誰にでもある。
人生は失敗の連続である。
だから、失敗したところで落ち込む必要など・・・・・・ない。そう、ないはずなのだが。
「博士、これで9999回目です。いいかげん、もうやめにしませんか?」
私はもう慣れてしまった毎度の光景に、げんなりとして肩を落とす。
「何を言っているのだ、助手よ。こんな如きでやめるなど発明家の名折れだぞ」
「いや、そんなコントみたいな髪型のまま言われても・・・・・・」
モクモクと煙がのぼる機械の傍らに立った、黒縁メガネを掛けた丸いアフロヘアへ向けて溜息をこぼす。こんなのが世間ではちょっとした天才発明家としてもて囃されているのだから世も末である。
「さあ、助手よ。次だ次。準備に取り掛かってくれ」
「これ、いつまで続けるんですかね?」
「そんなのは、成功するまでに決まっているだろう」
「よくもまあ、9999回も失敗して落ち込まずにいられますね」
「1万回目で成功するかもしれんぞ。その方がきりがよくて響きがカッコイイだろう。それにまだ試してみたいことが山ほどあるんだ。楽しみ過ぎて胸が高鳴ることはあっても、落ち込むことなどあり得んよ」
「・・・・・・そうですか」
私よりだいぶ年上の男性が、眩しいほどにキラキラと目を輝かせている。清々しいまでの無邪気な笑顔でそう言われたら、もう私が何を言っても無駄だろう。
私は次の準備に取り掛かる。世間ではちょっとした有名人であるはずの博士には、助手は私しかいない。うら若き乙女が働く職場としては仕事量は半端ないが、今は辞めようなんてことは思っていなかった。
確かに博士がいま取り掛かっているものが成功すれば、世紀の大発明となる。それを助手という立場で迎えられたなら、私の今後の地位も安泰だ。
「準備はいいか、助手よ」
「はい、博士。いつでもどうぞ」
博士と共に日々を過ごすたび、大きくなるこの胸の高鳴りは、きっとそういう理由なのだろうと、今はそう結論づけた。
【胸が高鳴る】
考えることをやめるな
常に問い続けろ
これは正しいか
いま目の前にあるものは
いま目の前で起こっていることは
正しいと言えることなのか
最も恐ろしいことは
不条理が日常化してしまうことだ
誰かが傷付いている
誰かが苦しんでいる
誰かが泣いている
それがまるで風景の一部みたいに
他の誰の目にも見えなくなった時
ひび割れた亀裂が
いつか大穴となって
世界を闇へと堕とすのだ
【不条理】