失敗は誰にでもある。
人生は失敗の連続である。
だから、失敗したところで落ち込む必要など・・・・・・ない。そう、ないはずなのだが。
「博士、これで9999回目です。いいかげん、もうやめにしませんか?」
私はもう慣れてしまった毎度の光景に、げんなりとして肩を落とす。
「何を言っているのだ、助手よ。こんな如きでやめるなど発明家の名折れだぞ」
「いや、そんなコントみたいな髪型のまま言われても・・・・・・」
モクモクと煙がのぼる機械の傍らに立った、黒縁メガネを掛けた丸いアフロヘアへ向けて溜息をこぼす。こんなのが世間ではちょっとした天才発明家としてもて囃されているのだから世も末である。
「さあ、助手よ。次だ次。準備に取り掛かってくれ」
「これ、いつまで続けるんですかね?」
「そんなのは、成功するまでに決まっているだろう」
「よくもまあ、9999回も失敗して落ち込まずにいられますね」
「1万回目で成功するかもしれんぞ。その方がきりがよくて響きがカッコイイだろう。それにまだ試してみたいことが山ほどあるんだ。楽しみ過ぎて胸が高鳴ることはあっても、落ち込むことなどあり得んよ」
「・・・・・・そうですか」
私よりだいぶ年上の男性が、眩しいほどにキラキラと目を輝かせている。清々しいまでの無邪気な笑顔でそう言われたら、もう私が何を言っても無駄だろう。
私は次の準備に取り掛かる。世間ではちょっとした有名人であるはずの博士には、助手は私しかいない。うら若き乙女が働く職場としては仕事量は半端ないが、今は辞めようなんてことは思っていなかった。
確かに博士がいま取り掛かっているものが成功すれば、世紀の大発明となる。それを助手という立場で迎えられたなら、私の今後の地位も安泰だ。
「準備はいいか、助手よ」
「はい、博士。いつでもどうぞ」
博士と共に日々を過ごすたび、大きくなるこの胸の高鳴りは、きっとそういう理由なのだろうと、今はそう結論づけた。
【胸が高鳴る】
3/19/2023, 11:00:16 PM