スマホを空中に向け、カシャッとカメラを鳴らす。
何回も。何回も。それを繰り返す。
ひらひらと舞い落ちる真白な雪を、次々と四角い画面に閉じ込めていく。
儚げなこの雪の美しさを、少しでも手元に残せたら──なんて、そんなたいそうな理由で撮り始めた訳ではないけれど。
コートの袖口から覗いた指先が、痛いくらいに冷たくて。
麻痺したような感覚が、じんわりと熱を持つほどだったから。
その熱につい浮かされて、いま目の前に積もる冬の光景を、変わらぬままに捕らえてみたくなったのかもしれない。
【寒さが身に染みて】
ふと後ろを振り返れば、踏み固められた道が地平線の先まで長く伸びていた。
そこにくっきりとついた幾つもの足跡は、自分のこれまでの確固たる軌跡である。
最初の一歩を刻んだあの日からなかなか遠くへ来たものだなとそう呑気に思いを馳せれば、前方にはまだまだ果ての見えない景色が続いていたんだということを思い出す。
後ろへやった視線をそのままに、空へと片腕を突き出せば、大きく肘を曲げて手を振るう。
大人になったばかりの20歳の自分が、瞳をキラキラと輝かせ、今よりもっと力強く地面を踏みならし、前へ前へと進んでいた。
きっと希望に溢れた彼の真っ直ぐな道筋に、ちょっとだけ横道に逸れてしまった自分の姿は、少々影になって見えなくなっているだろう。
それでもこうして手を振るう。
ありがとう。ありがとう。
君がそうして進んでくれたから、今の自分はここにいる。
君が真っ直ぐに進んで来てくれたから、ちょっとした遠回りくらい、何てことないと思えるんだ。
ありがとう。ありがとう。
いつか君も今の自分と同じ場所で、いつかの君に手を振るうだろう。
いつかの君に手を振るう君の背に、今度はいつかの自分が手を振るうから。
【20歳】
鏡の中に映る自分の顔は、どれも理想とは程遠い。
目も鼻も口も耳も輪郭さえも、全てのパーツに何かが欠けている。
才能も特技もこれといってなく、話上手でもなければ愛嬌すらも振り撒けない。
集団に入っては居場所を作れず、何となく馴染めずに時を過ごす。
なんてダメな欠陥品。
いつまで経っても、欠けてるばかり。
けれど。それでも。
丸く大きな満月の、輝かしい黄金には遠く及ばなくても。
「今夜の月が一番綺麗ですね」
細く鋭利な三日月の、
ささやかなる月明かりの下。
そんな優しい声が聞こえる夜に、
私はいつか出会うのだと、
今夜も夢を見続け眠りに就く。
【三日月】
『寂しい』って気持ちを色に例えたらどんな色になるだろう。
そんな質問をネットに投稿してみた。
あっという間に答えが返ってくる。
水色。白色。灰色。無色。
自分と同じような色を想像した人もいれば、
薄橙。赤紫。深緑。焦茶。
意外な視点の答えも返ってくる。
日を追うごとに回答は増えていって、まだまだ尽きない。
答えの数だけ、みんな寂しいって思ってるのかな。
みんなの寂しさを集めたらこんなにも世界は色とりどりで、寂しいなんて色褪せるくらい綺麗になるのに。
【色とりどり】