作品No.182【2024/09/29 テーマ:静寂に包まれた部屋】
あなたのいない部屋。
私一人になった部屋。
なんだか静かで、静かすぎて、落ち着かない。今までは、音に溢れていた気がするのに。
「ああ、そうか」
話すにしろ、聞くにしろ、それは誰か相手がいるからこそ成り立つのだ。私だけになった今、私が吐く言葉など、虚しいものでしかない。
ため息が重く、部屋を満たすだけだった。
作品No.181【2024/09/28 テーマ:別れ際に】
あなたはいつも気付かない。
私が別れ際に、〝さよなら〟しか言わないことを。
あなただけがその後に、また次の約束を結ぶ言葉を口にすることを。
本当に鈍感。本当に愚か。
あなたは私に会いたいのかもしれないけれど、私は違うわ。私が次の約束を自分からしないのは、そういう意味なのに。
あなたは気付かない。
私が、あなたに会いたくないことに気が付かないのね。
作品No.180【2024/09/27 テーマ:通り雨】
※半角丸括弧内はルビです。
「最っ悪!」
言いながら、杏妃(あずき)は雨に濡れたアスファルトを踏みつける。その度に、水が跳ね、杏妃の足を濡らした。
「さっきまで晴れてたじゃん、ふざけんなよ」
独り言を呟きながら、杏妃は駆ける。
自宅を出る前、よく晴れた青空を確認していた杏妃は、傘を持たずに家を出ていた。顔も髪も服も、どれもバッチリ決めてきたというのに、突然の雨でそれらは完璧ではなくなっていた。自信満々に、鏡の前で決めポーズまでして家を出てきた杏妃にとって、この雨は最低最悪のモノでしかなかった。
「……って」
杏妃は立ち止まり、空を見上げた。まだ雨は降り落ちているものの、灰色の曇り空から一転、空はまた青さを取り戻していた。
「言ってるそばから晴れてるし!」
喜べばいいのか、怒ればいいのか、わからなくなりながら、杏妃は学校への道を急いだのだった。
作品No.179【2024/09/26 テーマ:秋】
※「秋」の後に紅葉の絵文字(=🍁)が付いていましたが、省略しました。
この島に、〝秋〟などというしゃれた季節はありません。季節の半分以上が夏といっても過言ではないからです。
それでも、彼岸花は咲くし、陽の落ちる時間は早くなるし、夜も長くなります。
季節感の乏しいこの島にも、確かに〝秋〟はあるのかもしれません。
作品No.178【2024/09/25 テーマ:窓から見える景色】
昔は、自分の部屋から花火が見えました。
それが、隣に家が建って見えなくなりました。
ならばと、廊下の窓から花火を見ました。
なのに、大きなアパートが二棟できて見えなくなりました。
今はもう、音しか楽しめません。