帰燕[Kien]

Open App

作品No.180【2024/09/27 テーマ:通り雨】

※半角丸括弧内はルビです。


「最っ悪!」
 言いながら、杏妃(あずき)は雨に濡れたアスファルトを踏みつける。その度に、水が跳ね、杏妃の足を濡らした。
「さっきまで晴れてたじゃん、ふざけんなよ」
 独り言を呟きながら、杏妃は駆ける。
 自宅を出る前、よく晴れた青空を確認していた杏妃は、傘を持たずに家を出ていた。顔も髪も服も、どれもバッチリ決めてきたというのに、突然の雨でそれらは完璧ではなくなっていた。自信満々に、鏡の前で決めポーズまでして家を出てきた杏妃にとって、この雨は最低最悪のモノでしかなかった。
「……って」
 杏妃は立ち止まり、空を見上げた。まだ雨は降り落ちているものの、灰色の曇り空から一転、空はまた青さを取り戻していた。
「言ってるそばから晴れてるし!」
 喜べばいいのか、怒ればいいのか、わからなくなりながら、杏妃は学校への道を急いだのだった。

9/27/2024, 2:41:22 PM