作品No.127【2024/08/05 テーマ:鐘の音】
店先で鳴る呼び鈴の音。私と姉は立ち上がって、裏口の戸を開ける。
「おばあちゃあん!」
そう呼ぶと、祖父の愛人——祖母の皮肉混じりの称号だ——である黒イヌのルーが吠える。そして、洗濯をしていた祖母が走ってくる。
「お客さん!」
「はいはい」
祖母が店に戻るのを見届ける前に、私達はドアを閉める。
これが、小学生の頃、夏休みの私達姉妹の日常だった。
今はもう、祖父はいないし、ルーもいない。祖母がやっていたお店は、大元の会社の倒産をきっかけに閉店した。祖母は元気だが、最近体調がよくないことも多い。
もうあの呼び鈴の音が鳴ることはないだろうが、あの夏の日々は、今よりずっと輝いていた思い出のひとつだ。
作品No.126【2024/08/04 テーマ:つまらないことでも】
つまらないことで
泣き
笑い
怒り
感情豊かに表情に出していた日々
今や遠い過去の日々
作品No.125【2024/08/03 テーマ:目が覚めるまでに】
夢、だったらいいのに。
もう二度と、私を映してくれない瞳。もう二度と、私の名を呼んでくれない口。もう二度と、動かない身体。
あなたの命の火が消えてしまったこと、全てが夢だったらいいのに。
眠って起きたら、あなたが傍にいる——その日常が、戻ればいいのに。
私が明日、目が覚めるまでに。
作品No.124【2024/08/02 テーマ:病室】
今でも、時折思い出す。
母方の祖母に連れられて行った、どこかの病院。私は、おそらく祖母の手づくりなのだろうワンピースを着けていた。
薄暗い病室のベッドに、一人の痩せた老婆が横たわっていた。目を閉じて、動かない。眠っていたのか、昏睡状態だったのか。
ただ、それだけの記憶。
その老婆が自分にとってどういう間柄の人なのか、よくわからないまま今に至るけれど。
思えばあれが、私の記憶にある最も古い病室の記憶。
作品No.123【2024/08/01 テーマ:明日、もし晴れたら】
明日が
晴れだろうが
曇りだろうが
雨だろうが
仕事なのはかわらないので
私はただ
明後日の
貴重な土曜休みのために
明日も生きるのです