帰燕[Kien]

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4/9/2024, 7:58:15 AM

作品No.9【2024/04/09 テーマ:これからも、ずっと】


 ようこそ、いらっしゃい。あなたで、そう……何人目かしらね、ここに来るのは。思い出せないわ。
 でも、何人目であろうと同じ。私にとっては、みんな特別な人よ。
 みんな、新しい生活に、ワクワクして、ドキドキして、目を輝かせてここに来るの。夢を抱いて、それを叶えるために頑張るんだって、強い想いに溢れた人達が、いっぱいここに来るのよ。私は、それを応援してあげたいの。
 確か——あなたの前にここに来た人は、和服を仕立てる和裁士になりたいって言ってたわね。もっと気軽に和服に親しんで着てもらいたいんですって。私、なんてすてきな夢なのかしらと思ったものよ。
 その前に来た人は、週に一回、ギター一本でライヴに出ていたわね。物悲しげな音と歌詞が、私、とてもすきだったわ。
 ふふ。あなたの目も、今までここに来た人達と同じね。明るく輝く、きれいな目だわ。
 でもね、なんでかしらね。
 来たばかりの頃はみんな、目を輝かせているのに、やがて沈んだ暗い目になっていくのよ。そして、そのままここを出ていくの。
 私、それがすごくいやなの。なにがいやって、それを何度も見送らなければならないのがいやなの。
 ごめんなさいね、来たばかりのあなたにこんな話をして。でも、ここに来たってことは、あなたにも叶えたい夢があるのよね? 私、応援するわ。
 どんな夢をもった、どんな人が来ようとも、この場所に来る人をずっと応援する。
 それが、これまでも、これからも、ずっと、私の楽しみなんだもの。
 

4/8/2024, 3:27:37 AM

作品No.8【2024/04/08 テーマ:沈む夕日】


昼と夜の境目の時間

丸く輝く太陽が
沈んでゆく

その時間の景色が
たまらなくすきだ

4/7/2024, 4:25:19 AM

作品No.7【2024/04/07 テーマ:君の目を見つめると】


 キミの目を見つめると、石になるんだって?
 だから、長い前髪で隠して、誰とも目があわないようにしてるんだ? へえ……。
 なんか、もったいないっていうか、ボクなら逆に見つめてほしいけどなぁ。
 え、なんで怒んの? ボク、本心からそう言ってるんだけど。
 だってさ、もし本当にそれで石になったらさ——。
 今の美しいボクのままでいられるってことでしょ?

4/6/2024, 3:44:05 AM

作品No.6【2024/04/06 テーマ:星空の下で】


 めちゃくちゃ不定期に綴っているブログに、【満点の星空の下でバーベキュー! 楽しかった!】というタイトルで、写真付きで記事を掲載した。念の為、一緒にバーベキューしていた友人達が写っていないものを選び、景色や料理の写真ばかりを載せた。我ながら、いい写真ばかりだし、きっと好意的な反応がもらえるだろうと期待した。
 ところが、だ。
【景色は綺麗だし、料理もおいしそうだけど、記事タイトルで全部台無し】
【日本語勉強しろ】
【バーカ】
 コメント欄には、そんな文章ばかりが並んでいる。
 俺、そんなにひどいこと書いてる?

4/5/2024, 3:29:11 AM

作品No.5【2024/04/05 テーマ:それでいい】

※半角丸括弧内はルビです。


「お昼ご飯、何がいい?」
 私がそう訊くと、昌和(まさかず)は、
「なんでもいい」
と、気のない返事をこぼしてきた。
 〝なんでもいい〟? 不機嫌に問い返したい気持ちを押し殺す。
「インスタントラーメンでもいいかな?」
「それでいいよ」
 〝自分がつくるよ〟もない。どころか、〝お願い〟も、〝よろしく〟も、ない。料理は、自分がするべき家事ではないと思ってるのだろう。
「じゃ、私つくるね」
「おー」
 そんな昌和の様子に、私はさらに苛立ちを募らせる。ここまで、昌和は一度も私を見ようとしなかった。夫婦になって二十年、子どももいない夫婦なんてそんなものなのかもしれないけれど、なんだか虚しくなる。
 塩味袋麺を調理することに決めた私は、昌和に対する小さないやがらせをすることも決意した。
 冷凍庫から、冷凍コーンを取り出す。トウモロコシ嫌いな昌和は、これを見たら怒り狂うかもしれないけれど。
 それでいいや、と思った。

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