作品No.9【2024/04/09 テーマ:これからも、ずっと】
ようこそ、いらっしゃい。あなたで、そう……何人目かしらね、ここに来るのは。思い出せないわ。
でも、何人目であろうと同じ。私にとっては、みんな特別な人よ。
みんな、新しい生活に、ワクワクして、ドキドキして、目を輝かせてここに来るの。夢を抱いて、それを叶えるために頑張るんだって、強い想いに溢れた人達が、いっぱいここに来るのよ。私は、それを応援してあげたいの。
確か——あなたの前にここに来た人は、和服を仕立てる和裁士になりたいって言ってたわね。もっと気軽に和服に親しんで着てもらいたいんですって。私、なんてすてきな夢なのかしらと思ったものよ。
その前に来た人は、週に一回、ギター一本でライヴに出ていたわね。物悲しげな音と歌詞が、私、とてもすきだったわ。
ふふ。あなたの目も、今までここに来た人達と同じね。明るく輝く、きれいな目だわ。
でもね、なんでかしらね。
来たばかりの頃はみんな、目を輝かせているのに、やがて沈んだ暗い目になっていくのよ。そして、そのままここを出ていくの。
私、それがすごくいやなの。なにがいやって、それを何度も見送らなければならないのがいやなの。
ごめんなさいね、来たばかりのあなたにこんな話をして。でも、ここに来たってことは、あなたにも叶えたい夢があるのよね? 私、応援するわ。
どんな夢をもった、どんな人が来ようとも、この場所に来る人をずっと応援する。
それが、これまでも、これからも、ずっと、私の楽しみなんだもの。
作品No.8【2024/04/08 テーマ:沈む夕日】
昼と夜の境目の時間
丸く輝く太陽が
沈んでゆく
その時間の景色が
たまらなくすきだ
作品No.7【2024/04/07 テーマ:君の目を見つめると】
キミの目を見つめると、石になるんだって?
だから、長い前髪で隠して、誰とも目があわないようにしてるんだ? へえ……。
なんか、もったいないっていうか、ボクなら逆に見つめてほしいけどなぁ。
え、なんで怒んの? ボク、本心からそう言ってるんだけど。
だってさ、もし本当にそれで石になったらさ——。
今の美しいボクのままでいられるってことでしょ?
作品No.6【2024/04/06 テーマ:星空の下で】
めちゃくちゃ不定期に綴っているブログに、【満点の星空の下でバーベキュー! 楽しかった!】というタイトルで、写真付きで記事を掲載した。念の為、一緒にバーベキューしていた友人達が写っていないものを選び、景色や料理の写真ばかりを載せた。我ながら、いい写真ばかりだし、きっと好意的な反応がもらえるだろうと期待した。
ところが、だ。
【景色は綺麗だし、料理もおいしそうだけど、記事タイトルで全部台無し】
【日本語勉強しろ】
【バーカ】
コメント欄には、そんな文章ばかりが並んでいる。
俺、そんなにひどいこと書いてる?
作品No.5【2024/04/05 テーマ:それでいい】
※半角丸括弧内はルビです。
「お昼ご飯、何がいい?」
私がそう訊くと、昌和(まさかず)は、
「なんでもいい」
と、気のない返事をこぼしてきた。
〝なんでもいい〟? 不機嫌に問い返したい気持ちを押し殺す。
「インスタントラーメンでもいいかな?」
「それでいいよ」
〝自分がつくるよ〟もない。どころか、〝お願い〟も、〝よろしく〟も、ない。料理は、自分がするべき家事ではないと思ってるのだろう。
「じゃ、私つくるね」
「おー」
そんな昌和の様子に、私はさらに苛立ちを募らせる。ここまで、昌和は一度も私を見ようとしなかった。夫婦になって二十年、子どももいない夫婦なんてそんなものなのかもしれないけれど、なんだか虚しくなる。
塩味袋麺を調理することに決めた私は、昌和に対する小さないやがらせをすることも決意した。
冷凍庫から、冷凍コーンを取り出す。トウモロコシ嫌いな昌和は、これを見たら怒り狂うかもしれないけれど。
それでいいや、と思った。