《美しい》
僕にとって美しいは呪いだ。
度が過ぎた美しさは人を狂わせるという言葉がある。
本当にその言葉の通りだ。
僕はそのせいで人に会うことを許されない。
許されるのは目が見えない女の子だけだった。
その子も僕へ関われる嫉妬で殺された。
僕はその子を殺したやつを八つ裂きにした。
僕は美しいからその行為を許された。
そんな美しさなんて要らなかった。
女の子と幸せに生きる日々が、欲しかった。
美しさで得るものと失うものは美しさに比例する。
美しかった僕は働かず暮らせるが、人を失った。
死してすら美しいと称えられる僕は、どうしたら普通になれるのだろう。
《この世界は》
この世界は不公平だ。
明日を望む君に明日は来ないのに、明日を望まない僕に明日は来る。
君との約束で許容することができた明日を、僕はもう迎えられない。
明日を誰よりも望む君に明日は来ないなら、僕が君の身代わりとなり明日を君にもたらそう。
そう言っても「そんな明日はいらない」と君は言う。
君のいない明日なんて僕は望まないから、追いかけようと思うのに。
君は僕に呪いをかけて、追いかけられないようにした。
僕はいつも、今日こそ君の元へ行けますようにと祈りながら日々を過ごしている。
君が誰よりしあわせだと証明しなければならない。
そう思って色々な人と関わりを持って生きていってしあわせの中で死ぬのだ。
「俺の分まで幸せにならなきゃ駄目だよ」
《どうして》
気がついた時には全てが遅かった。
どうして、僕は君を信じることができなかったのだろうか。
どうして、どうして。
どれだけifを考えても、血に染まった君はもう僕の名前を呼んでくれはくれない。
僕の涙を拭ってくれない。
最後に一回でもいいから、ちゃんと素直になって、君に好きだと言いたかった。
今までやってきたことが信じられない程、幸福な最期だった。
もう後悔も何もないけれど。
もし一つだけ、僅かに心残りがあるとすれば、意外と泣き虫だった君の涙を最期に拭ってあげられなかったことだ。
《夢を見ていたい》
今日もしあわせな一日が始まる。
朝起きて朝食の準備をしていると、お前がのんびりと起きてくる。
その様子をみるに今日は悪夢をみなかったらしい。
悪夢をみたときのお前は足音を荒く、1秒でも早く僕を確認しようと部屋に飛び込んでくるのだから。
「しあわせだな」
そう言いつつ、身長が少し低いお前は背伸びして俺の肩に顔を埋めた。
「お前はいつもそれだね」
そうお前の腕を優しく撫でると、更に力が強まった。
「当たり前だろ‼︎」
いつものようにそこからいかに今がしあわせなのかという長いお前の話が始まる。
まるで口説いているようなそれに最初は照れていたものの、今ではすっかり聞き流せるようになった。
そんな僕の様子に気が付かずに熱弁を振るうお前の顔はいつもとても嬉しそうで。
だから決まって僕も「君と一緒だから楽しいよ」と言うお前の言葉に同意を返す。
するとお前は顔を少し赤らめて黙るのだ。
そしてそのまま頭を僕の肩に擦り付ける。
「まぁ、どうしても夕飯のシチューをご飯に掛けるのは理解出来ないねー」
そうお決まりのように返すと、口を少し尖らせて拗ねたように僕の肩に置いた顎を軽くぐりぐりと動かす。
それが僕は擽ったくて。
止めろと頭を撫でると、ご機嫌になる。
正直それに味を占められている気がしないでもない。
そんな何でもない日をいつまでも過ごせることを祈っている。
男は毎晩祈っている。
自分の罪が永遠に赦されることはないことはわかっている。
だが、どうか、どうかまだこの優しい夢を見させて欲しいと。
このぬるま湯に浸からせて欲しいと。
明日もまた君としあわせな一日を過ごせることを。
切に祈っている。
《ずっとこのまま》
明日には変わってしまうから。
今この時だけは、何も知らない振りをして。
ずっとこのまま一緒に居られると信じさせて欲しい。