!じゃ足りない感情
ゴキブリが出てきたときだろうか。
声も出ない程驚いてから、ギャーっと叫んで家族に知らせる。
数ヶ月前に外で一人のときに個室のトイレで見つけたときは叫ぶこともできず、扉を開いてそっと脱出した。
!じゃ足りないよね。
だけど、森のなかで人食いヒグマと出会うことを考えると大したことはないのかもしれない。
ニュースを見た時は「ヒグマが友人を連れ去った」という見出しに戦慄して意味を疑ってしまうほど驚いた。
君が見た景色
100m決勝
「on your marks」
私の時代は「位置について」だったと思う。
足もとに広がる真っ赤なタータン
ピストルが鳴ると同時に筋肉に力を込める。
1歩目、2歩目
スパイクの針をタータンに突き刺す。
受け取った反発力で身体を前に押し出す。
まだ加速、まだ加速
身体を浮かせないように腹筋に力を入れる。
腕のふりでバランスを取りながら、全ての力を前進にのみ変えていく。
左右になんか力を1%だってやるものか!
前傾していた姿勢が立つと視界にゴールラインが見えた。
同時に視界の端にライバルの姿が写り込む。
予選のときには見えなかった。
やっぱり全国の舞台はレベルが高い。
一気に焦った。
速く!速く!
ピッチが速くなってしまって、足が絡まりそうになる。
いつも通り!いつも通り!
一歩一歩を大きく!力強く!
たった10秒の間に全てが決まった。
この10秒のために努力してきた。
ありがとう、風
ありがとう、自分
ありがとう、みんな
この景色はずっと忘れない。
言葉にならないもの
映画「ラーゲリより愛を込めて」
終戦80年という節目にテレビで放映されていた。
俳優二宮が演じるのは山本幡男
シベリア抑留の話だ。
戦後、シベリアに60万人という日本人が-40℃にもなる世界で重労働を課せられていた。
(-40℃を下回ると重労働は中止になったそうだ。)
毎日与えられるのは黒パン350gと野菜少々、砂糖がスプーン1杯分という。
エネルギーにして、800kcal。
私が昨日食べたパフェは1200kcalだった。
成人男性の基礎代謝は1400kcal
極寒の地なのだから、体温を作るだけで今以上にエネルギーが必要なはずだし、その上さらに重労働を課せられていたのだから、800kcalではとてもじゃないが足りないはずだ。
それが戦後11年続いた。
日本人の仲間が隣で沢山亡くなる中でそんな過酷な生活に11年も耐え忍んだ人たちがいる。
「ダモイ(帰国)」の許可が下り、日本に帰ってきたシベリア抑留者の思い
帰国を待ち望みながら亡くなった戦病死者の思い
無事の帰還を祈り続けたその家族
戦後11年たち「戦後はもう終わった」と高らかな標語を目にした帰国者たち
とても言葉にならない。
真夏の記憶
小学生のとき毎日毎日、学校のプールに遊びに行ったこと。
服の下に水着を着て出掛けたのに、着替えのパンツを忘れてきて途方にくれたこと。
いつもは見ない昼ドラや今はないタモリさんの笑っていいとも!を観ていたこと。
夏の盆踊り大会のために夜、公民館に練習に行ったこと。
朝はラジオ体操のあとに、大縄大会の練習したこと。
近所の大学のサマーチャレンジに参加して、種を育てたこと。
子ども会のサマーキャンプに参加したこと。
思い出すと沢山の記憶がある。
いつもは思い出さないから、お題ありがとう。
こぼれたアイスクリーム
笑いが止まらなかった。
ジブリ映画「ハウルの動く城」をご存知だろうか?
荒れ地の魔女が階段を一歩一歩と上がる度に、姿が溶けて、身体中から汗が染み出てくるシーン。
あれと一緒だった。
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100円高いソフトクリームを食べた。
100円高いのには理由があって、コーン部分がラング・ド・シャでできている。
クリミアソフトというらしい。
ソフトクリームも北海道ミルクを使っているらしく、ちょっと高くてもそれを選んだ。
だって、2時間も運転をしたのだ。
琵琶湖の見える眺めのよいサービスエリアで残り3時間の運転のためにちょっとくらい贅沢をしたっていいじゃないか。
この贅沢は本当に贅沢だったのだろうか?
季節は真夏。太陽はギンギンと熱を持ってくる。
店員さんから手渡された瞬間からソフトクリームの輪郭がぼやけ始める。
おぉ、表面がじわっと溶け始めている。
あいにく、外だとギンギンの太陽に溶けるスピードが上がってしまう。涼しい車の中へと駆け込んだ。
車の中に入った途端、なんということだろう。
コーン代わりのラング・ド・シャの表面までソフトクリームが垂れ始める。
慌ててペロペロとラング・ド・シャをなめ始める。
何かがおかしい!
異変に家族の方が先に気がついた。
「これ、垂れてるんじゃない。
ラング・ド・シャから染み出てる。」
え?
よく観察すると、家族のいう通りだった。
ラング・ド・シャの表面の小さな穴からソフトクリームが液体となって染み出ている。
次から次から流れ出す。
笑いが止まらなかった。
これはあれだ。
ジブリ映画「ハウルの動く城」をご存知だろうか?
荒れ地の魔女が階段を一歩一歩と上がる度に、姿が溶けて、身体中から汗が染み出てくるシーン。
あれと一緒だった。
笑いが止まらなかった。
本当はゆっくりと北海道ミルクを味わいながら食べたかったが、溶けるスピードに負けじとあっという間にかぶり付いて食べきった。
本当に一瞬で食べて、サービスエリアを出発することになった。
琵琶湖の美しい風景をみる余裕もなかったとさ。