眠らなきゃ
でも眠れないの
眠ってしまえば明日になるから
明日になるのは怖いから
明日が怖い
未来が怖い
なぜ何もわからない先に光を見れるのか分からない
私にとって未来は真っ暗闇で
今の光すら吸収してしまう真黒でこんなにも怖いのに
それでも眠らなければいけないから
布団を深く被って、今日にさよならを
隙間の空いたカーテンから漏れた光に顔を上げた
ちらりと端を摘んでめくれば暗かったはずの外は
いつのまにか明るくなっていた
ベッドの上に三角座りしたまま寝こけていたらしい
固まったままの足をゆっくりとほぐして下ろしていく
伸ばした足にもふりとぬいぐるみが当たった
ベッドの上にはぬいぐるみが積まれている
ふかふかの山に足を埋めていく
冷えたマットレスを覆うように温もりを与えてくれるぬいぐるみたちは、皆愛らしい顔をしている
輝く黒い瞳に、曲線を描く縫い目の笑顔
その誰もが愛おしくて
愛おしくて、私はそれらを足で蹴飛ばした
笑顔の動物たちがベッドから崩れ落ちる
それでも笑顔でたたずんでいる
こんなことをしたってどうにもならないのに
どうにもならないことなど一番私がわかっているのに
それでもこの苛立ちを、愛を、苦しみを
罪のない動物たちに押し付けられずにはいられない
どの子達もお気に入りのぬいぐるみだ
全部、彼がくれた愛なのだ
たとえ彼が、もう私にくれる愛が尽きたと言っても
この子達に込められた愛が蒸発し無くなったとしても
私たちはこの子達を愛さずにはいられない
彼に渡せないこの愛を軽い綿に沈み込めるように
蹴散らした愛し子たちを、ぎゅうと抱きしめた
自然と溢れた涙が豊かな毛並みを固めたとしても
強い力が形を崩したとしても
それでも抱きしめずにはいられなかった
他の誰かになんて負けるはずがない
私が一番わかっているの
愛の重さも、恋の煌めきも
私のものが一番でしょう?
美しいところも醜いところも全部知っているからこそ
全部愛して、全部に恋してあげる
他人になんて目を向けないで!私だけを見て!
誰よりも、私が私を愛してあげる
だってそうでなくちゃ
誰からの愛も恋もないまま、生きていくのは辛いもの
タイムマシンが発明された頃、いわゆるタイムカプセルが流行り出した
何年後かに掘り起こしたければ、タイムマシンで送ればいい
そうすれば、掘り起こす予定を忘れることも、勝手に誰かが掘り起こしてしまうこともない
土に埋めるよりもよっぽど便利で、画期的だと若者の間で流行り始めた
そこからやがて、何かの折に未来へ手紙を送ることが一種の風習となった
未来の自分に当てて子供が描いた手紙も
成長した我が子への手紙も
残しておきたい恋心も
沢山の手紙が装置の中に入れられ、未来へと送られた
ある時、沢山の手紙が装置の中から出てきた
最初は故障かと思われたが、その手紙の中身を見て人々はそれがただの故障ではないことを悟った
それは10年後の私たちから送られてきた手紙だった
手紙の中身は様々だった
やり残したことを託していたり
子供へ宛てた愛情だったり
誰かに宛てたラブレターだったり
ただ、共通していたのは
全ての封筒に「遺書」と書かれていた
バレンタインなんて所詮製菓メーカーの策略で
好きな人にチョコを渡す日だなんて誰が決めたわけでもないし
まぁでも丹精込めて作られたチョコレートに罪はないわけで
チョコレートはいつだって甘くて美味しいわけで
その甘さが嫌いなわけではなくて
そんな御託を並べながら口に放り込んだチョコレート
小ぶりの宝石は跡形もなく私の熱で溶けてゆく
貴方のことを考えながら選んだチョコレートは甘くて
それでも胸の中の苦味は消え去ってくれやしない
どろりと中から溶け出す刺激に舌が痺れる
熱っぽいのは洋酒のせいだと思わせて
まだ貴方に浮かれてるなんて思わせないで
貴方に気持ちを伝える勇気すらない
舌足らずな私に気付かないでいて