「ただいま」
ずっと待っていた人がようやく帰ってきた。
「おかえり、」
そう返すと、寝ててもよかったのに、そう答える彼。
今は午前二時。
「話したいことがあるの」
彼の方を見てはいるけど、顔までは見なかった。
「今度にして」
そう言い放たれて、私の中で何が崩れた。
「最近そればっかり、もう疲れたよ」
最近ずっと考えていた事。明日こそ言おう。そう思って、ずっと先延ばしにしていた。そう、ずっと、そうやって先延ばしにしていたのは、やっぱり彼のことが好きだからなのかもしれない。
「じゃあね、言いたいことは言ったから」
そう言って出ていこうとする私の手を、ドアノブにかかる前に掴んだ。
「…っ、はなしてっ」
まさか私が拒絶するとは思っていなかったのか、目を見開いていた。
「だめ、行かせない、」
そう言うと、私の唇と彼の唇が重なった。
「…なんでっ、別れたのにっ」
そう言う私だが、頬になにかが伝っていた。
「俺がいいって言ってないから、別れてないっ」
と、私を抱きしめる。
「やだっ、なんで、ねえ、なんでなの?」
「私…私、もう疲れたんだよ」
「辛いの、苦しいの」
「ねぇ、離れさせてよっ」
泣きながら言う私に、
「ごめん、もう1回だけチャンスを俺にちょうだい?」
なんのチャンス?と聞くと、
「もう一度好きにさせるチャンス」
「やだよ、」
「…っ、なんで…」
そんなの決まってる、
「もう好きだからだよ」
「これ以上好きにさせないでよ」
「え、じゃあ」
「うん、いいよ」
そう言うと、さらに抱きしめる力が強くなる。
「もう絶対離さないから」
そう言った彼は優しくキスをした。
夜はどんどん深くなる。
真夜中の始まりだ。
Write By 凪瀬
「ねぇ、」
と、スマホゲームをしている俺に彼女が話しかける。
「ん?」
と、スマホを片手にだいぶ曖昧な返事を返すと、
「愛があればなんでもできる?」
そう言いながら、こてん、と首を傾げる愛しい彼女。
かわいい。そう思った直後に俺はやっと彼女が放った言葉の意味をやっと理解する。
「急にどうしたの?」
いきなりの事でやっている途中だったゲームをやめて、スマホを置く。
「いや、なんとなく笑」
「なんとなくなんだ笑」
と、ふたりで笑った。
でも、と彼女は続ける。
「なんとなくで言ったけど、ちょっと気になるかも」
そう言って、ちょっとぎこちなくはにかんだ。
「そうだなあ…考えたことなかったかも」
「だよね笑」
「無理しないでいいよ、流していいから」
そう答える君に、俺は
「でも、愛があるかないかは別として、自分にとって大事で、今しかしてあげる事ができないなら」
「非人道的な、っていうか、道徳心に欠けること以外ならするかもな」
…なんともありきたりな回答だ、と自分でも思う。
「なるほど…」
と、変に納得している彼女。
そんな君にそれでも、と俺は言葉を綴る。
「他の誰でもない、自分が守るって決めた人になら、その言葉は使えるかもね」
「例えば?」
と聞く君に、
「どんな時でも、側に居てくれた最愛の人とか…ね?」
俺はそう言いながら、彼女の…妻になる君の左手をとる。
俺が握っている小さな手には、これからの未来を指すかのように、淡く光る指輪がはめられている。
Write By 凪瀬
目が覚める、横を見る。
ここにはもう君はいない。
「…」
あの時どうすればよかったのだろうか。
ひきとめていれば…今頃君は俺の隣にいたのだろうか。
「いや、ちがうな」
そうじゃない。例えひきとめていたとして、
今の俺に何が出来ていたのか。
「…はあ、」
君がいなくなってから何度目の朝だろう。
時間は戻らない。
そんなの誰でも知っている。
でも…でも、だ。
始まりに戻れたらな、なんて考えが頭に浮かぶのは、
後悔、という文字が何度も俺の頭に流れてくるのは、
生きている限り逃れられないものなのだ。
今でもずっと後悔している。
あの時、止めていれば…君はまた笑ってくれていたのかもしれない。
君がいない時間を、俺はどう過ごせばいいのか、
教えてくれ。
同じ季節は来ないように、
ひと時の春に散っていった桜のような、
俺の最愛の人よ。
Write By 凪瀬