『0からの』
今年もウィンタースポーツの季節がやって来た。
小さい頃から受験の年を除いて毎年
スキー場へ行っている。
本当は何回も行きたいが距離がある為
スキーのレンタルやリフト券の他に
ホテル代と交通費がかさみ年に2回がやっとだ。
広いゲレンデも、雪の白さも
スキーを走らせる音も最高に楽しい。
やっと慣れた頃、帰らなければならないのが
悔しいが、いつかスキー検定も受けてみたい。
さあ、今日は初めてのスキーだ。
まずは歩く事から、今年も0からのスタートだ。
『同情』
どうしてこうなったのだろう。
皆が同情の目を向けているのが分かる。
私は教室でうつむいて座るしかなかった。
ことの発端は中学のクラス対抗球技大会の日。
私の大ミスで優勝を逃したのだ。
慰める友もいたが嫌みを言う人もいて
どうしていいのか分からない心情を
後日の作文にしたためた。
それを教育実習生が授業の題材に使いたいと言う。
とんでもない!と拒否したが
本人が分からないように配慮するの条件で
しぶしぶ承諾した。
ところが授業が始まると、作文の名前こそ読まないがそのままの文章に皆が私の方を向いた。
あれほど言ったのに、配慮も何も無いじゃないか!
それから1人づつの感想が続く。
目の前に本人が居るので、皆一様に頑張った
責められるものではないと言っている。
この流れだと最後は私だ。
皆の優しさが嬉しいですとでも言えば
きっと実習生は満足なのだろう。
「皆さんの言葉を聞いてどう思いましたか?」
案の定、最後に実習生は私に聞いた。
どう答えようか。
考えていると再度、どうですか?と促された。
私はゆっくり立ち上がると‥。
『枯葉』
今はもう無いが、母の実家は山あいの
自然豊かな所だったらしい。
何度も聞く思い出話に庭の焼き芋がある。
時期になると皆で集めた枯葉を焚いて
濡れ新聞紙とホイルに包んださつまいもを置く。
時間をかけてゆっくり燻すと甘くねっとりとした
焼き芋が出来るのだと言う。
なんて贅沢な話しだろう。
時間をかけて美味しい物を作るなんて。
今の私は日々の生活に忙しく
まるで違う環境の中にいる。
けれど一度は食べてみたい庭の焼き芋。
いつか私にも食べる機会が訪れるだろうか。
『今日にさよなら』
いつまでも絶えることなく
友達でいよう
明日の日を夢見て
希望の道を
空を飛ぶ鳥のように
自由に生きる
今日の日はさようなら
またあう日まで
信じあうよろこびを
大切にしよう
今日の日はさようなら
またあう日まで
またあう日まで
『今日の日はさようなら』
作詞・作曲 金子詔一
『誰よりも』
昔から自分の声の小ささは自覚していた。
普段の生活に支障は無いが、大きな声を
出す場面では出来ない自分が辛かった。
「お願いします!」
部活始めは体育館の入り口で1人づつ
先輩のOKが出るまで挨拶を繰り返す。
同級生が一発でクリアする中
私は何度やっても駄目だった。
聞こえない、それが理由だったが
精一杯の声を出しても言われるので
辛くて涙が滲み、声は益々小さくなった。
まるで自分の全てを否定されたようで
その場からいつも消えてしまいたかった‥
今、私は老人ホームで働いている。
入所中のマツさんが
「あんたの声は誰よりも優しいなぁ」
と言ってくれる。
私はその言葉が嬉しくて涙する。