株価 リアルタイム推移 検索
人々の間を縫うように木枯らしが通行する
ベンチに座り、今日もスマートフォンの画面上に漂い、揺れ動くそいつが上昇する事を願い、睨みつける
我ながら、少々悪趣味だと思うが生憎金より大事なものを知らないのだ
だが、ふと、
「なんでこんな線、睨んでんだ? ……やめようかな」
寒空の下、意図せずひとりごちる
急に何を言っているんだ俺は、一番大切だと言っていたじゃないか
株価も人も全く読めない また、眉間にシワが寄る
そんな俺を馬鹿にしているのか、木枯らしが手を組み
突風として、俺を襲ってきた
突風に混じり、ほのかに甘い香りがした なんなんだよ 本当に
足元に影が揺れ動く
「あの、大丈夫ですか?さっきから難しそうな顔してますけど、あっ!ちょっとストップです!……
よし取れた!葉っぱついてましたよ、風すごいですもんね」
株価も人も全く読めない
恋愛感情急上昇 俺を売らなきゃ
子供の頃から欲望に従って生きてきた
欲望の湖へ自ら入り、自分の泳ぎたいよう泳ぎ、演技する
それが幸せで、ずっと「湖と共に果ててしまいたい」そう思っていた
「すげぇ奴がいるんだよ!皆も見てくれ!」
キラキラした目で言われた
「悪い!明日休日だったけどナシになった!」
胡散臭い目で言われた
「なんだよ?やれよ!……欲望の湖?知らん!そんなの」
一寸先の光も見えないような目で言われた
「あのな!お前が今従うべきは欲望じゃない」
「義務だ!」
俺には笑わせたい奴がいる
奴を笑わせると決めた15歳のあの日から20年
ちびっ子、タレント、大御所、全国民を笑わせる事はできたが、俺の頭上に天高くそびえ立つ奴を笑わせた事は一度もない
ぽつ ぽつ ぽつり
なんだよ、予報では今日は会えないって言ってたのに
「そんなに俺に会いたかったのか!仕方ないな、とっておきの新ネタやってやる 見てろよ!」
俺は物憂げな空に叫んだ
「好きだ」
突然だった
放課後に同じクラスの女子と友達の高原そして俺とでゴミ捨てをした帰り、高原が言いやがった
本当に突然だった
「俺さ!ずっとお前の事好きで、でもこんな事急に言うのもあれ……なんですけど!でも!……でも!今言わないと後悔するって思ってそれで!……」
すごい、俺の目の前で愛の告白がされている
友人が頭をひねって愛を伝えている
ちょっと面白い
俺はぎこちなく喋る友人を目の前に居ても立っても居られなくなり助け舟を出した つもりだった
「こんなに言ってるしさ、その……まぁいいんじゃない?」
そう言って女子の方を見た
「……OKだ!!!」
その刹那、後ろで大歓喜が起きた
大勢の女子が、校舎の隅や草むらからワッと出てきた、いや最早溢れ出てきたのだ
「やったじゃん高原!」「よっしゃ!他のクラスにも伝えてくる!」 「おーい!高原OK貰ったよ!」
ガラリと窓が開いた 「マジ!?」「ヤバ!」「草」
俺は訳が分からなり高原の方を見た
馬鹿みたいな量の女子に囲まれ、その中から俺の目をウルウルした目で真っ直ぐ見ながら
「これからよろしくな!俺絶対お前を守るから!」
高らかに宣言していた
俺はこの日、主語というものがどれだけ大切なのか思い知った
コイツは0からの天才だ
何も教わっても見てもいないのに1を作り出してしまう
だが、2以上を作り出すことができない
それでもこの1ビットの世界では十分だ
今日もコイツは1ビットの世界で無数の0からを産み出す