“え?面白いことを聞くね”
僕はむっとして彼を睨みつけた
“ごめんごめん。君が面白いことを言うもんだからさ”
“愛があればなんでもできる、、、かぁ”
“そもそも愛とはなんだろうね”
“とても不確かで存在自体が不明瞭だ”
“その辺りを通ってる人に「愛とは何か」って尋ねてご
らんよ”
“三者三様の答えが返ってくるはずだから”
僕は目の前を通り過ぎる人たちを見て、視線を落とし
た
目の前には食べかけのプリンがある
“形はあるのかもしれないね”
“君の前で哀れにも粉々になったプリン”
“食べる前は形があり美味しそうに見えても”
“食べてみれば、な〜んも味のしない
ただ滑らかな食感だけが口の中に広がる”
“甘くもなく苦くもない”
“かと言ってしょっぱくもない”
“周りのカラメルソースの苦味だけが口に残る”
“それはただのこのプリンの感想じゃん!!”
僕は咥えていたスプーンを外し、彼に向けて叫んだ
“定義というものはありイメージはできるけど、その中
身は無だっていうことだよ”
“言葉にはできないということ”
僕はポカーンとした顔で彼を見た
彼は行き交う人々を見つめながら
“確かに「愛のために死んでください」や「どちら
を選びますか」なんて問答よく聞くよね”
“なんで死が前提にあるのか分からないけど”
“でも、人は用意された答えには理性を持って答え
ようとするけど、もし目の前で本当に大切な人が
危険な目にあった時、君たちは本能でどんな行動を
取るんだろうね?”
君はにやりと笑った
“それは自分の心でしかないということ”
『愛があればなんでもできる?』より
野原を白い蝶がふわふわと舞っている
私は寝そべりながらそれを見る
風に揺られ
あっちへふわふわ
こっちへふわふわ
花を探して舞っている
あぁなんて気持ちよさそうなんだ
私も飛べたらどんなに気持ちいいことか
風を身にまとい
空高く舞い
花と戯れてみたいものだ
ふと白い蝶が私の鼻に止まった
おやおや
そこは“ハナ”違いですよ
そう話しても
蝶は何食わぬ顔で鼻にとどまっている
私は蝶が驚かないように
わずかに上げた耳をゆっくり下ろした
私の黒い鼻先にいる白い蝶
なんて綺麗で可愛いのだろう
毛並みを風に撫でられながら
私はゆっくりと目を閉じた
『モンシロチョウ』より
君は本当に残酷だね
君は事も無げに全てを赦してしまう
その度に僕は僕自身の心の狭さに辟易してしまう
君が輝けば輝くほど
僕は影から抜け出せなくなる
後ろめたい気持ちのことなんて
君は知らないんだろう
知らない君は
今日もまた僕に笑いかける
『優しくしないで』より
“あ、流れ星”
“どこどこ?”
“ほら、あそこ‼︎”
“見えないよ”
“ほら‼︎あそこだって、、、”
“、、、あ〜あ、消えちゃった”
“見たかったなぁ”
落ち込むわたしに、あの子は
“落ち込むなよ‼︎また探すから‼︎”
と励ましてくれた
“そういえば知ってるかい??”
“流れ星が流れている間に3回願い事をすると”
“その願いは叶うんだよ”
その声にわたしは振り向いた
後ろには男の人が立っていた
“そうなの⁉︎”
“そしたら次見つけたら絶対願い事する‼︎”
わたしたちはその話を聞いてすぐに宙を見上げた
あれから40年も歳月が流れ
わたしも彼もだいぶ歳をとった
流れ星に願いなんて、、、
なんて可愛いことをしていたんだろう
思い出すだけでクスッと笑ってしまう
願いなんて叶わないんだろうなぁと思いながら
わたしは今日も流れ星を探してる
『流れ星に願いを』より
“あー、てすてす”
“マイクテスト、マイクテスト”
“ゴホンッ”
“本日は晴天なり”
“私の心も晴天なり”
“あー、てすてす”
“マイクテスト、マイクテスト”
“終了”
誰もいない講堂にてマイクを置いた
『今日の心模様』より